昨年5月のユニット結成のニュースに、思わず「ズルい」と口走ってしまったのは私だけではないはず。と同時にリリースされたシングル“ジーニアス”、続けざまに放たれた“オーディオ”の完成度の高さには、それこそポップの天才を感じずにはいられなかった。もはや説明不要かと思われるがLSDは、「顔なき天才ヒットメイカー」シーアと、メジャー・レイザーや、スクリレックスとのユニット=ジャック・ユーのメンバーとしても活躍するディプロ、そしてシーアはじめニッキー・ミナージュやザ・ウィークエンドとの楽曲にも参加しているUK出身のシンガー・ソングライター/プロデューサーのラビリンス、その3人による夢のようなユニットだ。数年来の友人であったシーアとラビリンスが楽曲制作をする中で、ディプロに声をかけたことがきっかけで誕生したというが、それぞれの頭文字を取ったユニット名にしても出来すぎだと思うくらい、なんというかやっぱり「ズルい」のだ(もちろん良い意味で)。そんなスーパー・グループのフル・アルバムが完成した。“ジーニアス”含め、先にリリースしたシングル曲たちはもちろんのこと、新曲もそれぞれに独特の浮遊感を感じさせる、オリジナリティ溢れるポップ・ソング。シーアのハスキーなボーカルとラビリンスの滑らかで深みのある歌声が掛け合う“ノー・ニュー・フレンズ”などは、その洗練されたトロピカル・サウンドも含めてとにかく気持ち良いし、ミニマムなトラップ・ミュージックがここまでドラマティックなポップスとして成立するのかと思わせる“ヘヴン・キャン・ウェイト”などは、ディプロのプロデュース力はもちろんのこと、シーアもラビリンスも各自がプロデューサー的な視点を持ち合わせているからこそ、互いの強みを存分に引き出し合えていることを感じさせる。この時代に鳴るポップ・ソングとしてまったく隙がない。ジャケットのアートワークやアー写も含め、どこか不思議な非現実感をたたえるユニットだが、時代のその先を行くサウンド・プロダクションを構築しながらあくまでポップスとして着地させる、その方法論はこの3人の共通項としてそもそも通底しているものだし、今年1月に発表された“ジーニアス(リル・ウェイン・リミックス)”など、派生的に展開する他アーティストとの自在なコラボも興味深い。とにかく自由なポップ・ミュージックが詰め込まれた今作。MV制作なども楽しんでいる様子が伝わってくるし、今後のクリエイティブにも期待していいだろう。一時的なユニットで終わるのは非常にもったいないと思うので。 (杉浦美恵)
各視聴リンクはこちら。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。