2021年も、残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間2位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
【No.2】
『ハピアー・ザン・エヴァー』/ビリー・アイリッシュ
進化しても、今なお響くその歌
衝撃のデビュー・アルバムから2年ぶりとなるこの新作『ハピアー・ザン・エヴァー』。史上空前のブレイクを果たし、ツアーに次ぐツアーという日常へと放り込まれ、そんな日々の中での軋轢や人間関係の煩わしさも経験し、歌詞として問いかけたいことも相当に変わっていったはずで、それをきちんと自分の歌へと昇華し、それに見合った、よりメインストリーム感の強いサウンドを形にしていったところに、ビリーのとてつもない才能をあらためて感じる。
アルバムの先駆けとなったのはシングル“マイ・フューチャー”で、ここでは相手とのすれ違いから距離を取りたいと感じている歌い手の心情が綴られている。しかし、距離を取りたいのは、関係を修復したいからではなく、自分を見つめ直したくなったからで、もう相手との関係はどうでもよくなっている心情がひもとかれていく。というのも、歌い手の女の子はこの先自分はどうなっちゃうんだろうという不安にも苛まれているからだ。そんな先行きへの不安から、いろんな成り行きを想像してはあれこれと考えずにはいられなくなる。
そのとりとめもない状態を「わたしは自分の未来に恋している」と表現するところにこそ、今回のビリーの大きな飛躍と成長と変節がある。それは“everything i wanted”までのように自分の闇を解剖していくビリーではもうないのだ。さらにこのもの想いをスローなファンク・バラードに乗せたのも、センスが相変わらず冴えまくっているところだし、新機軸にもなっていて、この音の新しさは本作のほかのどの曲についても同じように言えることだ。
あるいは“ゲッティング・オールダー”ではストーカー的なファンに待ち伏せされる心境を綴りながらその不安を、アルバム・タイトルの「ハピアー・ザン・エヴァー(わたしは今絶好調のはずなのに)」とつぶやくのも印象的だ。なんでこんな絶好調な時期に自分はこれほど生きづらさを感じてしまうのだろうというこの問いかけはまさにビリーの真骨頂だ。
何よりも秀逸なのはこうした問いかけがスーパースターダムに特化された憂いにはなっていないことだ。それはすべてがうまくいき始めた時に壊れ始めていく自分って一体なんなのという、極めて普遍的な苛立ちと諦めとして表現されているからで、これこそがビリーの歌がどこまでも響くわけでもあるのだ。(高見展)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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