2021年も、残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間1位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
それでは皆さん、良いお年を!!
【No.1】
『テアトロ・ディーラ Vol.1』/マネスキン
ロック復活の年、マネスキンの年
誰もやろうとしなかったものに、やろうとしても誰もできなかったものに、イタリアの4人の若者は真っ直ぐ手を伸ばし、見事掴み取ってしまった。マネスキンの大ブレイクとは、そんな不可能性の大逆転の産物だったことを、本作を聴くと改めて思い知らされる。
70年代ハード・ロックの大仰なギター・リフで、グラマーでパンキッシュ、時々メタルですらあるド派手なメロディで、つまり超古典的なロック新星としてポップの最前線で勝負し、勝ってしまうなんて少し前のシーンの固定概念ではありえないことだったが、だからこそマネスキンは古めかしいポップの祭典「ユーロビジョン」で、その固定概念の及ばぬ辺境で発見されたのだった。
サウンド的にもマーケティング的にもあらゆる段階でボタンを掛け違えていたにも拘らず、いや、掛け違えていたからこそ、彼らはパンデミック下の2021年の閉塞とは無関係に突破できたのだろう。
『テアトロ・ディーラ Vol.1』は全8曲、30分に満たないコンパクトなアルバムであり、コンセプトよりもパーツの強度、一発必中の曲作りに全集中した結果物であるのは想像に難くない。しかも彼らが鳴らしているのはロック・アンセムであり、同時にオリヴィア・ロドリゴやザ・ウィークエンドのシングルとも比肩する(Spotifyのバイラル・チャートでは実際に比肩した)ポップ・バンガーでもあるという二重構造が、この勝負曲の連打の中から浮かび上がってくる。
ハード・ロックの間延びを許さんと言わんばかりにザクザク垂直に刻まれるガレージ・ギターや、ダミアーノのほとんどラップのようなパーカッシブなボーカル、ヨーロピアンな哀愁のメロディをたちまち筋肉質にビルド・アップしていくファンクといった古典らしからぬアプローチも次々に表出し、スタイルの古さとデザインの新しさを兼ね備えた彼らのロックの斬新に気づかされる。
本作は一見すると磨き上げられた美しいクラシック・カーだが、実は中身がとっくに総入れ替えされた最新EVカーのような作品なのだ。ちなみにデビュー・アルバム『イル・バッロ・デッラ・ヴィータ』は本作よりもポップ寄りで、ヒップホップもR&Bも大好きなマネスキンのバックグラウンドが素直に表出したものだった。
前作のようにヒップホップっぽいロック、R&Bっぽいロックなんて今や凡庸なわけで、本作が斬新なのは彼らが自分たちのその多様性をあくまでロックのために注ぎ込んだこと、王道ロック・バンドとして勝つための武器として使った点にある。
しかし何より本作が斬新なのは、マネスキンが2021年を象徴する存在だと言い切れるのは、彼らのロックが一瞬で若い世代に受容された、その現象自体が体現していると思う。大人や評論家が蘊蓄を述べ始める遥か以前に彼らの曲はとっくにZ世代を熱狂させていたし、“ジッティ・エ・ブオーニ”がイタリア語で歌われていることも、“アイ・ワナ・ビー・ユア・スレイヴ”のMVでメンバーが男同士で濃厚なキスを交わしているのも、当たり前に受け入れられた。更に言えば、彼らがほんの数年前までは時代遅れとされていたロック・バンドであること自体も、何ら負の意味を持たなかった。
そんなZ世代によるマネスキン受容の光景は、彼らの「古くて新しい」魅力が認められた結果というよりも、古い/新しいのジャッジそのものからロックが遂に解放された証左だったのではないか。ストリーミング時代に最適化されたロックがこんな形で登場するとは予想できなかったし、それはもちろん、予想以上の結果だったのだ。(粉川しの)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。