2021年も、残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間3位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
【No.3】
『コール・ミー・イフ・ユー・ゲット・ロスト』/タイラー・ザ・クリエイター
これがヒップホップの最前線
前作『イゴール』に続き全米1位を獲得。間違いなくタイラー・ザ・クリエイターの最高傑作だ。と同時に、2021年もっとも優れたラップ・アルバムのひとつでもある。音楽語彙の豊富さ、多様性、折衷性、音楽的ビジョンの多さと広さ、内省的なシンガー・ソングライターとしての洞察の深さと巧みな感情表現、サウンド・プロダクションの成熟、ラッパーとしての技術の高さ、積み重ねてきた経験、先達・伝統への敬意が凝縮されている。
全16曲52分、楽曲をノンストップで繋いでいくやり方は、一定のジャンルやサウンドに収束しない、カテゴライズされないという意思の表れであり、単曲ではなくアルバム全体をひとつの表現として聴いてほしいとする思想であり、プレイリスト全盛の現在に於ける一種の反時代宣言でもある。音楽史に於けるさまざまなヒップホップの伝統、カニエ・ウェストやリル・ウェイン、N.E.R.D.、エミネムらの名盤たちを意識した節もある。それでいてレトロスペクティブなものとならず、ノスタルジーと現代性の折衷とバランス、進化/成長と成熟のバランスが抜群にうまい。
ビリー・コブハムの“シエスタ”やウエストサイド・ガンの“Michael Irvin”をサンプルしたジャジーなポエトリー・リーディングのオープニングに始まり、グレイヴディガズをサンプル、オッド・フューチャーを彷彿とさせる不穏で不吉で攻撃的なラップ・ナンバー、そこからノンストップでリル・ウェインをフィーチャーしてボサ・ノバ風に展開する構成も完璧。
前作に比べラップ曲も増え、タイラーはDJドラマをパートナーとしてラッパーとしての力量を見せつける。とはいえレゲエやボサ・ノバ、ジャズを多くサンプリングしたサウンド・プロダクションはカッティング・エッジであると同時に繊細で内省的で、シンガー・ソングライターとしてのタイラーの優れた一面を提示してもいる。
デイジー・ワールドをフィーチャーし、ジェイミーxxがプロデュースで参加したポップでカラフルな“Rise!”、ワブル・ベースの重低音が強烈な“Juggernaut”など、変化に富んだ曲調の連続で飽きさせない。淡々としたラップとシンプルで起伏の少ないトラックで8分以上の長尺を持たせる“Wilshire”は、アーティストとしての力量の確かさを痛感させられる。圧巻。(小野島大)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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