世界一肉食な草食系男子MUSE

世界一肉食な草食系男子MUSE

最上段の立ち見までパンパン。スタンディングのアリーナはまるでフルハウスのライブハウス。日本武道館の様相を異様な熱気で膨らませたMUSE来日公演最終日は、ウエンブリー・スタジアムを秒殺するバンドの現在のスケールを申し分なく見せ付ける、圧倒的なパフォーマンスだった。このバンドにまつわる過剰、流麗、ドラマチックといった形容詞がいとも簡単にゴシック書体で太書きされていく様は、途中から笑ってしまうほどだった。

しかし。ここで展開されていく、ロックの中でもとりわけハードでストロングで臆面もないダイナミズムが、果たしてステージ上のミュージシャンを肥大化させていくかというとまったくそんなことはない。エゴの発露としてアンプからありったけの音を吐き出していくそうしたロックの増幅効果は、ことMUSEに限っては、作用しない。というか、クリシェとあえて言ってしまうが、ストロークの後に何度も高々と手を挙げるマシュー・ベラミーの姿に、これまでのロック・スターがそうであったようなセックス・アピールが宿っているかというとそんなことはないのだ。

ロックの中でももっともエゴ肥大で傲慢でセクシャリティ垂れ流しなフォームでありながら、MUSEはその真逆なのである。バックステージでデカダンな振る舞いなど想像もつかない。むしろ、ケータリングのミネラル・ウォーターを少しずつ口にする振る舞いこそ見える。そこが、だからMUSEの逆説的な特別性でもある。

では、なぜそんな草食系男子にこのような音は掌握されるのか。それはもう、彼等、というかマシュー・ベラミーの内面に途轍もない誇大妄想があるからとしか言えないだろう。ほとんど脳内では中世の騎士団が跋扈し、決死の愛が詩として謡われ、世界は破滅と創造を繰り返しているのだろう。そういう妄想が、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ユーラシア」といった卒倒しそうなほど馬鹿でかいパースペクティヴを築き上げているのである。

そういう意味では、MUSEは怖いバンドでもある。
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