ジャケットには海でピアノを弾くなとりらしき青年とギターを弾く少年が描かれており、MVを見るとこの曲は大人になった現在のなとりから少年時代の自分に向けられたメッセージのように受け取れる。
音楽とギターを弾くのが好きな少年は、将来について「正しい選択」を迫られたときに、自分の「好き」や「こうなりたい」という気持ちを押し殺して《ただ、まっすぐな線を歩いていく》ことを選ぼうとする。
少年の「未来」である大人になった彼は、かつての強がりや羞恥心、後悔もすべて受け止めて、《その線の先で、あなたのことを待っている》と優しく過去を振り返りつつ、少年に《「ただ、まっすぐな迷路を歩いていこう」》と告げ、人生に寄り添おうとしてくれる。
そして未来の彼からのメッセージを受け取った少年は、自分自身が心から望む道を走り出す決心をする。
《まっすぐな迷路》=「人生」なのかなと思うが、この言葉には深く納得した。人生は「未来」にしか進んでいかない1本道のはずなのに、どこに進めばいいのかわからなくなったり、気づいたら逆走していたり、思わぬところに穴が空いていたり、とにかく迷いに迷う。
しかし迷いに迷ってどんな選択をしても、未来のあなたは受け止めてくれる。だから自分の純粋な願いや希望から目を逸らさないでほしい。この曲や映像から、そんな温かいメッセージを感じた。
のも束の間、この曲のタイトルが、妄信的な熱狂や崇拝を意味する“Cult.”と名付けられていることにドキリとした。なとりは自身のXで「Cult.に悩む、すべての人へ」というテキストとともにリリース予告をしている。
なぜ”Cult.”……と考えて、このタイトルは、これまで正しいとされてきた価値観を疑うことなく信じ続け、それによって若者たちの未来を狭めてしまったり縛ってしまったりする大人、ひいては社会に対する皮肉がたっぷり込められているように思い至った。そう思ってもう一度楽曲を再生すると、少年たちへの励ましのように感じられた楽曲中のクラップ音は、画一的な世界に少年たちを誘おうとする呪いのようにも聴こえる。
少年たちに対する温かい眼差しと、社会に対する冷ややかな視線。そのふたつを1曲の中で成立させてしまうのがなとりだ。とはいえ大人である自分は、このタイトルになんだか背筋がヒヤリとした。(藤澤香菜)
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