2004―2021
祝!オールタイム・ベストアルバム『総合』発売
東京事変、全フルアルバム&EP「全部のせ」レビュー
衝撃のデビューシングル“群青日和”を収録した1stアルバム『教育』から、2012年の解散と2020年の「再生」に至るまでの8年間を経ての最新作『音楽』まで。17年間の軌跡をひもとく全アルバムディスコグラフィー第3回!『ニュース』(2020年)
「再生」一発目で見せた到達点
2012年2月に解散した東京事変は、2020年1月1日、突如「再生」を発表した。その最初の音源となるEPがこの『ニュース』。収録された全5曲は、メンバーがひとり1曲ずつ作曲を手がけ(作詞はすべて椎名林檎)、解散前の『color bars』同様、東京事変というバンドが5つの強い個性の集合体として成り立っていることを色濃く感じさせた。しかしバンドサウンドとしての自然なまとまり、ある種の円熟味は長い休止期間を経てのものとは思えないほど。「閏年がやってきた」からと、この再始動の理由を語った椎名林檎だったが、8年の休止期間は東京事変がひとつの到達点を迎えるための必然だったのか。それぞれのプレイが際立ちながら、豊潤で心地好いアンサンブルに歌声も呼応して、魅力的な柔らかさと深みを感じさせるアルバムに仕上がった。亀田誠治、刄田綴色、浮雲、伊澤一葉、そして椎名林檎――今この5人で表現する音、歌こそが東京事変であり、椎名林檎自身が求め、思い描いた理想的なバンド像なのではないかと思う。そして収録された楽曲はそれぞれにこの時代の問題や矛盾や希望を進行形で映し出し、「再生」の意義深さにも思い至る。(杉浦美恵)『音楽』(2021年)
極限進化が内包されたプログラム
『大発見』から10年の時を経て届けられた「再生」後初のフルアルバム。ロック/ジャズ/ファンク/ソウル/クラシックといった多彩な音楽的エッセンスを内包する5人の音世界は、ヒップホップやドラムンベースなどの要素を自然に取り込みながら、さらにスリリングで豊かな熟成を遂げている。何より、メンバー個々の歌と演奏が放つアートとしての存在感と迫力が、お互いの魅力を何ひとつ失うことなく無限増幅し合っている現在の東京事変の在り方は、まさにバンド音楽の奇跡だ。ピアノの清冽な響きからクイーンばりの絶頂を描き出す“緑酒”。巧みに重ね合わされた音のレイヤー越しに、妖艶さとイノセンスが鮮明に浮かび上がる“赤の同盟”。静謐な祈りの如き歌声から、熾烈なるオルタナバラードの絶景へと導かれる“命の帳”――。常に新たな表現を研究し開発する音楽的探究心。そして、それを5人で共有することが新たな表現へのモチベーションに繋がっていく信頼感。その両輪の揺るぎない驀進ぶりを改めて伝えてくる極限進化作だ。“毒味”や“闇なる白”など随所に覗く時代感も含め、2021年に鳴り渡る東京事変のリアルに、幾度でも胸が躍る。(高橋智樹)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年1月号より)
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号表紙巻頭に東京事変が登場!