ネーミングがその後のキャリアを左右することもあるバンド名。米ラジオ放送の情報サイト「Radio.com」が、映画にちなんだバンド名を持つバンド25組を紹介している。
本記事では「Radio.com」をもとに、10組のバンドの名前の由来をエピソードと共に紹介していく。
デュラン・デュラン
今年で結成40周年を迎えるデュラン・デュランのネーミングは、フランスのSFコミックを映画化した1968年の映画『バーバレラ』が元ネタとなっている。
ロジェ・ヴァディム監督による同映画は、シュールなエロティシズムに満ちたSF作品だ。ジェーン・フォンダ演じる主人公のバーバレラが地球政府の命令を受け、宇宙破壊光線を発明したデュラン・デュラン博士の身柄を確保しに宇宙の旅に出る、という物語だ。
映画にはザ・ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズとキース・リチャーズの恋人としても知られる故アニタ・パレンバーグも出演している。
ウータン・クラン
90年代にハードコア・ヒップホップの一大ブームの先鞭をつけたウータン・クラン。実質的なリーダーのRZA以下、カンフー映画マニアとしても知られていて、リュー・チャーフィー(ゴードン・ラウ、劉家輝としても知られる)の1983年の映画『少林寺武者房(原題:Shaolin and Wu Tang)』がネーミングのもとになっている(「ウータン」とは映画で少林寺拳法に対抗する勢力として登場する武当派を指す)。
なお、ウータン・クランの1stアルバムとなった『燃えよウータン』の原題『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』は、リュー主演の最高傑作『少林寺三十六房』をネタにしている。アルバムは「シャオリン・スウォード(少林剣)サイド」(=A面)と「ウータン・スウォード(武当剣)サイド」(=B面)とに分けられている。
ブリング・ミー・ザ・ホライズン
メタルコアをよりコンテンポラリーに発展させ、圧倒的な人気を誇るブリング・ミー・ザ・ホライズン。ボーカルのオリヴァー・サイクスは、バンド名のいわれについて「SPIN」に対し以下のように語っている。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の台詞をちょっと変えたものなんだよ。映画の最後で、ひょっとしたら最後の台詞かもしれないけど、ジョニー・デップが「Bring me that horizon(あの水平線を持ってこい)』」っていうんだ」
当時、まだ実家暮らしだったオリヴァーは世界中をツアーする生活を夢見て、その夢をこの台詞に託したという。
それが自分たちにも出来るとはまだ僕たちも思ってなかったけど、でも、そういうことがしたかった。というわけで、あの台詞が、この広い世界は僕たちにどんなものを見せてくれるんだろうかっていう僕たちの気持ちを代弁するものだったんだ。
ザ・フラテリス
メンバー全員がフラテリ姓を名乗っていることで知られているスコットランドのザ・フラテリスだが、その名字は1985年の映画『グーニーズ』にちなんだもの。
これは物語に登場するギャングの一味「フラッテリー一家」から拝借した名字で、メンバーの本名はジョン・ロウラー、バリー・ウォラス、ゴードン・マックロイだ。
ブラック・サバス
ブラック・サバスはオリジナル・ラインナップのオジー・オズボーン、ト二ー・アイオミ、ビル・ウォード、ギーザー・バトラーというラインナップで、もともとはブルース・ロックを追求していた。
しかし1969年当時のバンド名である「アース」を名乗るバンドが他にもいたため、新しいバンド名が必要になったという。「Radio.com」の記事によれば、このバンド名が気に入ってなかったオジーは、その後の経緯についてラジオ局「WNEW-FM」にて以下のように説明したという。
当時、俺たちがリハーサルしていた場所が通りを挟んで映画館の真向かいにあったんだよ。確かトニーだったと思うんだけど(実際にはギーザー)、「みんなわざわざお金を払って、ああいうホラー映画を観たがるのっておかしなことだと思わない?」ってね。だったら、そのホラーを音楽にしてみようかってことになったんだ。
そこでオジーとギーザーはホラー作家の故デニス・ホイートリーの作風を参考にした歌詞を練り上げ、1963年のイタリアのホラー映画『ブラック・サバス/恐怖!三つの顔』からバンド名を取ったというのだ。
なお、映画の原題は「恐怖!三つの顔」の方が正確であり、「ブラック・サバス(黒い安息日)」は英語のタイトルとして後付けされたものだった。しかし、バンドは「ブラック・サバス」という名前と共にサウンドの刷新を果たしたことから、その後もこのタイトルをそのままバンド名として名乗ることにしたのだとか。
マッドハニー
シアトル・シーンとグランジの先駆者的存在となったマッドハニーのバンド名の元ネタとなったのは、鬼才ラス・メイヤー監督による1965年の『欲情/マッド・ハニー』。
過失致死の前科を持つ主人公カレフが南部の町に流れ着き、ひょんな行き合わせから当座の旅の資金を得る職にありつく。カレフはその雇い主ルート・ウェイドの甥シドニーの妻であるハンナと心を通わせていくが、シドニーの方が小さな町でハンナのあらぬ噂を触れ回っていく。その後ルートの他界やレイプ事件などが発生する中、カレフは再び殺人を犯してしまうこととなる、という悲劇のストーリーだ。
ちなみにこの映画の煽情的なポスターは、ノラ・ジョーンズの『リトル・ブロークン・ハーツ』(2012)のジャケットの元ネタにもなっている。
モグワイ
スコットランドの音響系ロックで有名なモグワイのバンド名は、1984年の『グレムリン』に登場する生き物、「モグワイ」が元ネタになっている。
モグワイは主人公ビリーの父親、ランダルが中華街の骨董屋でみつけた生き物で、広東語で怪物を意味する「魔怪」が語源だ。
ちなみに「グレムリン」というのは、機械の整備不良などのせいで起きる事故などを引き起こすイタズラ好きな妖精のことで、このグレムリンが出没しないよう整備点検を怠らないように、というスローガンが1920年代から第2次世界大戦期にかけてのイギリス領の軍で浸透していた。
ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ
爆音ガレージ・ロックで有名なブラック・レベル・モーターサイクル・クラブだが、もともとはジ・エレメンツというバンド名で活動していた。しかしすでにこの名前を使っているバンドがいることを知り、バンド名の変更を迫られることになる。
そこでバンド名に選んだ映画が、マーロン・ブランドの1953年の出世作でバイクの暴走族を初めて扱った映画とされる『乱暴者(あばれもの)』だ。この中でマーロンが演じるジョニー・ステイブラーが率いているのが、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブだった。
ちなみにこの映画には、「ザ・ビートルズ」という名前のバイク集団が登場する。ジョージ・ハリスンやビートルズの広報担当だったデレク・テイラーは、5人目のビートルズといわれるスチュアート・サトクリフがこの映画をヒントにバンド名として提案し、ジョン・レノンが自分たちがビート・ロック・バンドだからということで映画の「Beetles」という綴りを「Beatles」に変えたのだと言及していていた。
しかし、映画『乱暴者(あばれもの)』はイギリス国内では1968年まで公開禁止となっていて、さらにバンドが名前を決めたのはハンブルグで巡業する前のことなので、関係者の誰も観ていたはずがないということが判明。現在では、ビートルズにまつわるこのエピソードは俗説ということになっている。
ただ、「Beetles」 がスチュアートからの提案だったという説や、ジョンがそれを「Beatles」に修正したという説は間違いないとされているようだ。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン
どこまでもポップなコードとメロディ構造と確かなリズム・セクション、そしてかきむしられるような轟音ギターで構成されるノイズ・ポップ・サウンドのパイオニアとなったマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。
そのバンド名がちなんでいるとよく指摘されているのは、1980年の『13日の金曜日』の大ヒットを受けて製作された1981年のカナダ映画『血のバレンタイン(原題:My Bloody Valentine)』だ。
ただ、ケヴィン・シールズはこの映画との関係性を否定。もともと初代ボーカルのデイヴ・コンウェイが提案して決まったバンド名で、「(名前を決めてから)何年か経って、すごいゴミのようなろくでもないカナダの映画の名前だったって知ったんだよ」と「AOL」に対し説明していた。
ザ・ダムド
セックス・ピストルズが巻き起こしたパンク・ロック・ムーブメントの渦中でピストルズの前座としてデビューしながら、シングル・デビューは“New Rose”でピストルズに先んじ、イギリスのパンク・ロック史上初のシングルをものにしたザ・ダムド。
彼らのバンド名は、1969年のイタリアのルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『地獄に墜ちた勇者ども』の英文タイトル『The Damned』をそのまま借用したものだ。
イタリア語の原題は「神々の失墜」という邦題に近いものだが、ドイツでは「呪われた者たち」と題され、英語でもそれがタイトルとなった。物語はナチス・ドイツ政権に擦り寄っていくことで富をなしていく、ドイツの旧家にして財閥の一家の運命と末路を描いたもので、時代の闇と人間性の頽廃を描き切った問題作だ。
その一方で、1960年のイギリス映画『未知空間の恐怖/光る眼』の原題『Village of the Damned』が元ネタになったのではないかという説もある。
同作は、ある村で女子たちが同時に妊娠し全員同じ日に不気味な容姿の子どもを出産するも、子どもたちは全員で集団行動を取りはじめテレパシーで村民を支配するようになるというSFサスペンスだ。