3. “ELEMENT.”
最新のビデオは"ELEMENT."だが、これはアルバムからの3枚目のシングル"LOYALTY."リリース1週間後に公開された。要するに、"LOYALTY."に客演したリアーナの出演がスケジュール的に無理だったということなのかもしれないが、アルバム『ダム』のテーマを明確に打ち出すという意味では、却って"ELEMENT."で最適だったようにも思う。
というのは、そもそも自分がなぜ今もヒップホップに身を投じているのかというその動機と向き合う曲になっているからで、サウンドもトップ・ドッグの盟友サウンウェーヴが手がけた、エレクトロニックともゴスペルともつかない、幽玄なトラックと染み入るライムで構成された曲になっているからだ。
この曲のヴァースは説教臭いところもあるが、それはどうして自分はそこまでやるのかという心情を明らかにしているからで、コーラスでは普段の自分は「常にかっこよくセクシーにやっていて」それはみんなが耳を傾けてメッセージを受け取ってほしいからだという、その心意気が泣ける。
ビデオはさまざまなハードな心象のコラージュになっているが、この曲で一番重要な部分はこのアルバムのタイトルとなったフレーズもブリッジで登場することだ。
それが「Damned if I do, if I don't / Goddamn us all if you won't / Damn, damn, damn, it's a goddamn shame / You ain't frontline, get out the goddamn way」という「Damn」続きのひとくさりとなっている。
つまり、ここでケンドリックは、自分がしっかりメッセージを聴き手に伝えても煽動的で反社会的だと一部の勢力から罵倒されるし、かといって口をつぐんていたらそのことでまたいずれ罵倒されるし、そういう努力をしなかったことで黒人全員が呪われるとも罵られるだろうということを吐露していて、だったら、徹底的にやるしかないという決意表明にこの曲はなっているのだ。ちょうどこのフレーズのところでビデオではケンドリックがある黒人に張り手を食らわせようとしているイメージもまたとても象徴的だ。
曲中の「俺はインスタグラムのためではなくてコンプトンのためにこれをやっている」というのはまさにそういうことを言い表したフレーズになっているわけだが、特にストーリー仕立てではなく、さまざまなイメージを編集したこのビデオがほかのどんなビデオよりもどこか不穏な怖さをたたえているのも偶然ではない。
それはいずれロス暴動に匹敵するような騒乱を引き起こしてみせるとか、そういうものではなくて、格差の受容はひとつの限界に達し始めているという認識をアーティストとしての感性として表現したものだからだ。(高見展)
ケンドリック・ラマー『ダム』からのMVを徹底解説! 今年最重要作の映像をとことん深掘り
2017.07.19 20:15