“チェーン・トゥ・ザ・リズム”MVはこんなに深い。アトラクションに込められた意味とは?

“チェーン・トゥ・ザ・リズム”MVはこんなに深い。アトラクションに込められた意味とは?

待望の新作『ウィットネス』が最新のUSアルバム・チャート初登場1位に輝いたケイティ・ペリー。アルバム全体の内容が明らかになると、実に多様なモチーフやテーマに満ちていて、それぞれを極限までポップに抽出した楽曲の詰まった作品だとわかったが、それにしても際立っているのは“チェーン・トゥ・ザ・リズム~これがわたしイズム~”の政治的、社会的なメッセージだ。

ケイティのあまりにキャッチーなメロディラインを完璧なダンス・ポップとして仕上げた、早くも名曲といっていい曲で、コーラスでは「このリズムがやめられない」と一見するといかにもなパーティー・チューンになっている。

しかしじっくり歌詞をみていくと、実は内向きで他人を知ろうとしない社会の中での個人の生き方を暗に問い直すテーマになっている。「リズム」とは自分を縛りつける日常や固定観念のことを指していて、そこから自由になれない自分について歌った楽曲なのだ。

さらに、こうしたメッセージをどこまでもポップに仕立て上げていくケイティならではのアプローチの極め付けとなっているのが“チェーン・トゥ・ザ・リズム~これがわたしイズム~”のミュージック・ビデオだ。ビデオはケイティ扮する女子がテーマ・パークに赴き、そこで大きな錯覚に気づくという内容だ。以下に詳しく解説する。




忘却の遊園地「OBLIVIA」
まずこの遊園地の名前が「OBLIVIA」といって、「Oblivion」、つまり忘却を意味する単語にちなんだものだ。つまり、すべての問題を忘れてしまうために人々が通っている施設なのだと暗示されている。

このテーマ・パークのキャラクターはハムスターの顔だが、シングル・リリース時に公開されたリリック・ビデオの主人公だったハムスターを彷彿とさせる。このビデオではハムスターが精巧に作られたドール・ハウスの中に住んでいて、ハムスターのために超ミニ・サイズのハンバーガーやパスタが作られるという内容になっている。


調理の間、このハムスターはリビングでひたすらテレビを観ているのだが、その内容は回し車で走り続ける別のハムスターの姿の映像なのだ。画面に表示されていく歌詞の空しさとこの回し車の映像が響き合うのがとても不気味で、この曲のメッセージをよく伝えるものになっていた。

アメリカン・ドリームの急降下、キノコ雲、そしてハムスターくんの回し車
そのハムスターくんのキャラクターに迎えられたテーマ・パークでの楽しい1日がビデオでは描かれるが、たとえば乗り物ひとつにも毒がある。
最初に遭遇するのは、いかにもアメリカの住宅を模したボックスに乗り込んで、それが振り回されては急降下を味わうアトラクション「アメリカン・ドリーム・ドロップ」、つまり「アメリカン・ドリームの零落」と名付けられているもの。

さらに遊園地の中では巨大な綿あめが提供されているが、これが原爆のきのこ雲の形になっていて、また核爆弾の形状の乗り物に乗ってのドロップ・コースターなども紹介される。そして、園内には長蛇の列をなして入場客がリズムを取りながらあるアトラクションに向かっていて、それがまさにハムスターの回し車なのだ。



「地獄水」のガソリン・スタンド、そして3D映像「核家族」
後半ではガソリン・スタンドが紹介され、その燃料として「インフェルノH2O(地獄水)」が紹介されるが、これはまさにエネルギー資源と水源の奪い合いが将来的に世界の大きな火種となることを暗示したものになっている。

“チェーン・トゥ・ザ・リズム”MVはこんなに深い。アトラクションに込められた意味とは?


最後は3Dテレビで入場客らと「核家族」と題された理想の消費社会家族像を観せられるが、画面から飛び出て登場したスキップ・マーリーの歌に促されて、ケイティ演じる女子はこれまで感じてきた違和感に納得する。

ケイティは昨年の大統領選でヒラリー・クリントンを積極的に支援し、支援キャンペーンでも何度もパフォーマンスを提供してきたことで知られている。この曲はある意味でその経験の反省のような内容にもなっていて、あまりにも他者や他人を知らないまま、自分の意見のみが正しい小宇宙に閉じこもったままでいいのかという問いかけになっている。



先のリリック・ビデオではその小宇宙をハムスターとドール・ハウスという形でたとえてみせ、さらに今度のビデオではこの問題を放置したままだとどのような惨状や不幸が待ち受けるものかわかったものではないという問いをテーマ・パークのアミューズメントという形でたとえてみせている。

これほど社会的・政治的な意味合いをも含んだメッセージを、その匂いを一切感じさせずに作品化させてみせるケイティの手腕はもうさすがとしかいいようがない。(高見展)

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