【コラム】RADWIMPSの音楽で永遠に続く余韻――映画『君の名は。』を観た
2016.08.31 16:30
「素晴らしいサウンドトラック」というのは、単に楽曲のクオリティだけを指して与えられる評価ではない。全編通して聴くことで、あたかも映画そのものを追体験するようなストーリー性を帯びていること――つまり、音楽が映画作品に流れる感情や思考をすべて受け入れ、物語に密接に寄り添っていることが絶対条件である、ということは今さら言うまでもないだろう。
僕自身、中学1年の夏に「金曜ロードショー」で何の予備知識もなく『風の谷のナウシカ』を観て一発で心奪われた夜、頭の中で場面とセリフのみならず、物語と最大限に響き合っていた久石譲のメロディと楽曲を、眠ることも忘れて記憶の中で必死に追いかけていたし、その後改めてサウンドトラックを聴いた時には、あたかも『ナウシカ』のストーリーそのものを体感しているような驚愕と感激に襲われたことを、30年近く経った今でも鮮明に覚えている。
この記事を読んでいるみなさんの中にも、すでに劇場で感激&感涙しきりの方も多かったであろう映画『君の名は。』。公開初週には動員数1位、RADWIMPSによる主題歌&サントラを収めたアルバムも週間チャート1位! と、これ以上ない最高のスタートを切ったことは既報の通りだ。
アルバム『君の名は。』の「RADWIMPSの作品」としてのエモーショナルな訴求力については、レビューでも先日書いた(http://ro69.jp/blog/ro69plus/147475)通りなのだが、今作の最大の目玉は何か? と言えばやはり、4つの主題歌も含めた「サウンドトラック」としての性能の高さ、作品との融け合い方に尽きる。
「山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉」と「東京で暮らす男子高校生・瀧」という遠く離れたふたりの記憶と生活が、ある日突然そっくり入れ替わってしまう、という一見コミカル&ファンタジックな導入から始まる映画『君の名は。』。
奇妙な「入れ替わり生活」に戸惑い反発しながらも、徐々にお互いへの理解を深めていくふたり。だが、その生活は突如終わりを告げる。そして、まだ見ぬ三葉を探す旅に出た瀧は、そこで意外な事実に直面する――というのが、オフィシャルサイトでも明かされている『君の名は。』の物語のアウトラインである。
これ以上の内容は映画のネタバレになるのでここでは割愛するが、映画を観た方はぜひとも改めてアルバム『君の名は。』を聴いてみてほしい。物語の幕開けを告げる主題歌“夢灯籠”から、朗らかな日常そのもののインスト曲“三葉の通学”“糸守高校”、ふたりの「入れ替わり生活」のモチーフとしてアグレッシブな躍動感とともに弾ける“前前前世(movie ver.)” をはじめ、前半部分の楽曲の快活なトーンが、「意外な事実」をきっかけに一転していく……といったアルバムの展開に、胸がざわついて仕方ないはずだ。
アルバム単体で見てもこの『君の名は。』は、「アレンジ面でのバラエティ」「個々の楽曲の表情の豊かさ」「主題歌のクオリティ」といった「作品」としての性能の高さにおいて十分に名盤であると感じることと思う。が、映画を観た後では、今作の印象はまるで変わってくる。
儚くも切実な「君」への想い、今この瞬間を生きているという奇跡そのもの――新海誠監督が今作に託したテーマを全力で慈しみ温めるために、野田洋次郎という稀代の表現者が持てる才気と情熱のすべてを燃やし尽くした、魂の軌跡の証明。ここにあるのは、そんな切迫したセンチメントと祈りと衝動そのものだ。
少なくとも僕にとって、『君の名は。』の映画×音楽の不可分な関係性は、少年時代の『ナウシカ』にも比肩するほどの感動を与えてくれるものだったし、おそらくメンバー自身にとってもこの『君の名は。』というプロジェクトは、RADWIMPSの音楽そのものを大きく前進させる体験であったことは想像に難くない。
……と原稿を書いているまさにその最中に、「RADWIMPS、11月に早くもニューアルバムをリリース!」の情報が飛び込んできて、思わず目が眩みそうになってしまった。現時点ではアルバムタイトルも未定、『君の名は。』に「movie ver.」として収められていた“前前前世”“スパークル”のオリジナルバージョンが収録されること以外の情報は手元にないが、それでも今から無性に胸が高鳴って仕方がない。(高橋智樹)