ポートノイ・シーン・マカパイン・シェリニアン @ Zepp Tokyo

開演早々ドリーム・シアター曲“ア・チェンジ・オブ・シーズンズ I. ザ・クリムゾン・サンライズ”炸裂! そのままリキッド・テンション・エクスペリメント(マイク・ポートノイがドリーム・シアターと並行して活動していたインスト・プログレ・メタル・バンド)の“アシッド・レイン”へ流れ込み――と冒頭からスリリングに魅せまくる展開に、Zepp Tokyoにあふれ返る熱い大歓声! そんなフロアを見回しながら、「コンバンワ、トキオ! ユー・アー・ビューティフル!」と呼びかけるマイクの満足げな表情が、オーディエンスをさらに高揚させていく。

2010年にドリーム・シアターを脱退したマイク・ポートノイが、同じくかつてドリーム・シアターに在籍したキーボーディスト=デレク・シェリニアン、そしてMR.BIGのベーシスト=ビリー・シーン、さらに辣腕ギタリスト=トニー・マカパインという夢のようなメンバーとともに結成したスーパー・テクニカル・インストゥルメンタル・プロジェクト「ポートノイ・シーン・マカパイン・シェリニアン」。11月13日:大阪・森ノ宮ピロティホール/14日:東京・Zepp Tokyo/16日:名古屋・CLUB DIAMOND HALLを巡るジャパン・ツアーの2日目となるこの日のアクトは、椅子席形式の1Fフロアを埋め尽くした(会社帰りと思しき40~50代かなり多めの)オーディエンスを終始総立ち&釘付けにする、圧巻の技量とエネルギーに満ちていた。ちなみに、この日のセットリストは以下の通り。

01.A Change Of Seasons : I. The Crimson Sunrise [Dream Theater]
02.Acid Rain [Liquid Tension Experiment]
03.The Stranger [Tony MacAlpine]
04.Stratus [Billy Cobham]
05.Atlantis Part 1 : Apocalypse 1470 B.C. [Derek Sherinian]
06.(Tony MacAlpine Guitar Solo)
07.Been Here Before [Derek Sherinian]
08.Birds Of Prey(Billy's Boogie) [Tony MacAlpine]
09.(Billy Sheehan Bass Solo)
10.The Farandole [Talas]
11.The Pump [Jeff Beck]
12.(Mike Portnoy Drum Solo)
13.Nightmare Cinema [Derek Sherinian]
14.Hell's Kitchen [Dream Theater]
15.(Derek Sherinian Keyboard Solo)
16.Lines In The Sand [Dream Theater]

Encore
17.Shy Boy [Talas]

ドリーム・シアターの楽曲が随所に盛り込まれているほか、各メンバーのソロ曲、タラス(ビリー・シーンの最初のバンド)の曲にジェフ・ベック曲に……と幅広く選曲されたナンバーを、プログレッシブ・メタル/フュージョン/ブルース/ロックンロールなどなど多彩なプレイアビリティでもって「カバー」の域を越えた華麗でダイナミックな演奏で響かせていく。上のセットリストを見ていただければわかる通り、この日のライブは「この4人でのオリジナル曲」は1曲もないし、たとえばドリーム・シアターのような「楽曲を積み重ねてひとつの世界観を構築する」といった趣の音楽表現ともまるで異なる。が、「何を」演奏するかよりも、その楽曲を「どう」演奏するかという一点において、彼ら4人の鳴らす音は間違いなく至上の音楽世界を作り上げていた。

エモーションの一斉掃射のように超硬質ビートを叩き出す、マイクのパワフルなドラミング。タフにボトムを支え、タッピングやスラップなど次々に技を繰り出し――と、ベーシストの枠を軽々と逸脱する自由闊達なビリーのベース・プレイ。時にメタルの権化の如きヘヴィ・サウンドでアンサンブルにエッジを加え、時に音階の壁をあっさり超越するフュージョン風ソロ・フレーズで聴く者を音の異次元へ誘うトニーのギター。そして、シンセ・リードでトニーと超絶ソロ・バトルを展開し、ハモンド・オルガンのワイルドな音色でバンドの熱演にさらなるドライブ感を与え、スペーシーなサウンドで無限の奥行きを与えるデレクの鍵盤使い……世界の最前線で鍛え上げたテクニックが、デレク曲“アトランティス パート1:アポカリプス 1470B.C.”のキメでお互い斬り合うように衝突し、ドリーム・シアター曲“ヘルズ・キッチン”で壮大な風景を描き出すように広がっていく。何より、楽器少年なら名前だけで垂涎ものの達人4人衆が、どこまでも純粋にこのアンサンブルの響きとスリルを全身で「楽しんで」いることが、その1音1音から伝わってくる。

フロアの熱気に、司会役=マイク・ポートノイの機嫌も上々。“アトランティス パート1:アポカリプス 1470B.C.”の前には「これからグレート・ジャーニーだ。シートベルトを締めてくれよ!」と呼びかけたり、ジェフ・ベック曲“ザ・パンプ”の前にオーディエンスとクラップの練習をしては「すごい! 日本人は何でもできる!」と笑ったりする姿が、ステージとフロアを自然にひとつにしていった。決して本意とは言い難い形でマイクがドリーム・シアターを脱退してから約2年経つが、この日の彼のプレイや表情は実に躍動感にあふれていて、快活な魅力にあふれていたのが嬉しい。アンコールはなんと、MR.BIGのライブでもお馴染みの疾走ナンバー“シャイ・ボーイ”! ビリー&マイクのWヴォーカルとフロア一丸のシンガロングが、最高の一夜を熱く彩っていた。(高橋智樹)
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