会場のレイアウトは、基本的に昨年のスタイルを踏襲していて、横浜アリーナ1Fの南東方向(つまりエントランスから見て右手)にステージが設置され、高い位置にスピーカーを配置。北西側(つまりフロア最後方)には1Fから2Fまで階段状に座席が引き出してある。ステージには高台になったDJブースが左右にふたつ用意され、その中央がライヴ・スペースという形だ。今年のWIREのロゴ・マークでもある、「W」の形に波打った白いチューブにストライプ模様の立体造形がステージの背後に浮かべてあるが、DEVICE GIRLSのVJに登場した今年のWIREガールが歯磨きをしているのを見て、このロゴ・マークのデザインはハミガキのイメージだったのだということにようやく気が付きました。
今年もいろんなドラマがあったけれど、やはりTASAKA→電気→まりん→卓球という前半の流れは、特に電気グルーヴのキャリアを追って来たファンにとって感慨深いものだったはずだし、それを第一の目的として参加した人もいたはずだ。タイムテーブルの構成も、恐らくそうしたファンの思いを受け止めるものになっていた。ただ、彼らのプレイが、過去からの物語を背負っただけのものかというと、そうではなかったと思う。電気は「テクノで踊らせる」という強い目的意識を感じさせるライヴを繰り広げたし、まりんのパフォーマンスも明らかに彼の未来に向けたステップを受け止めさせるという意味で感動的なものだった。
レコードやCDが売れなくなった時代の音楽シーンにおける、ダンスの現場が果たす役割。聴覚や視覚の刺激のみには留まらない音楽の効力が、ダンスの現場では露になる。一方で、ここ日本ではダンスの現場が直面している法のルールの問題もある。今回のWIREには、ダンス・ミュージックとポップ・ミュージックを取り巻く様々なテーマの中に、多くの人を巻き込みたいという思いがあったのではないか。それこそ、例えば電気グルーヴの物語を利用してでも、人々と新しいステップを踏み出したいという思惑が、あったのではないだろうか。そんなことを考えさせられる一夜であった。(小池宏和)