曽我部、登場。あいさつして、歌うまでの間に、「……恩返し、って……」とつぶやいてました。たとえ2夜目でも、チャボさんの熱心なファンの前でやる、というのは、ものすごいプレッシャーだったのだと思います。気持ちは、わかります。
セットリストはこうでした。1曲目、「ちょうど10年前の10月に、初めてソロとして出した歌です」という前置きで、スタートしました。
1.ギター
2.新曲
3.兵士の歌
4.がるそん
5.魔法
6.時計をとめて夜待てば
7.ベティ
8.月夜のメロディ(新曲)
9.満員電車は走る
10.おかえり
2曲目は、今年の10月、つまり今月書いたばかりだという新しい曲。スタッフによると、ほんとにまだできたばかりで、タイトルが変わるかもしれないそうなので、曲名は書きませんでした。バンジョーを弾きながら歌った3、あと8と9も新曲ですが、それらは既にソカバンのライヴでもやっていて、タイトルは変わらないようです。4、ピアノを弾きながら歌った7、あと10はソロの曲で、5と6はサニーデイ・サービスですね。
つまり、全10曲のうち、半分近くが新しい曲だったわけです。新しい曲たち、どれもとてもエモーショナルなメロディ。激しいし、声、でかい。9ではアコギを激しくストロークするがあまり、弦が切れてた。新しい曲だけじゃないな、以前からの曲も、どれもやたらエモーショナルな歌いっぷり、ギターの弾きっぷり、ピアノの鍵盤の叩きっぷりでした。という方法で、この日の曽我部は闘った、ということです。
1.夜のピクニック
2.You’ve Gotta Move
3.JO-JO
4.熊野神社を通って
5.サンドウィッチ
6.恋はいつも
7.甲州街道はもう秋なのさ
8.ひととき(朗読)
9.QUESTION
10.Fell Like Going Home
「このライヴでは必ず相手の曲をやることにしてる」という言葉で始まった6はサニーデイ・サービス。チャボさん、渋いとこ選ぶなあ、と感心。そして「この季節だから」と歌われた7は、言わずと知れた、フォーク時代(つまりチャボ加入前で古井戸と対バンしてた頃です)のRCサクセションのカヴァー。「おおおっ」とどよめきました、客席。嘘です。みなさん大人なのでそういうリアクションはしませんでしたが、頭の中で「おおおっ」が渦巻いているさまが目に見えるようでした。自分もそうだったもんで。8はバック・トラックを流して、朗読。
その朗読以外にも、マメにギターを持ち替えたり、曲によってギターの音をどんどん変えたり、リズム・ボックスを使ったり、客席をあおったり、合間のしゃべりでいちいち笑わせたり、逆にしんみりさせたり、わずか10曲とは思えないくらいバラエティに富んだステージだった。って、いつもそうじゃん。そう、いつもチャボさんのライヴはそうなんだけど、曽我部が「もうひたすらに熱をこめて歌います」みたいな直球勝負のステージだったので、それと比べて、「ああそうか、チャボさんのアコースティック・ライヴって、こんなにバラエティ豊かなんだ」っていうことに、改めて気づいた。
オーバーに言うなら、曽我部はアーティストで、チャボさんは芸人だった、というか。どっちが偉い、という話ではない。もちろん、表現者でありクリエイターである、という意味ではふたりともアーティストだし、人前に出てパフォーマンスしてナンボの商売である、という意味ではふたりとも芸人だ。ただ、曽我部には悪いが、あと僕はどっちかというと曽我部の方が親しいし、彼の方に身内意識を持っている人間だが、こういうふうに続けて目の当たりにすると、仲井戸麗市の芸人としてのタフさってほんとすごいんだなあ、と、つくづく思ってしまう。
チャボさんのファンの前だからチャボさんの方がウケてた、っていうだけではない。これ、ファンじゃなくても大ウケだったろうなあ、と思わせるようなライヴだったのだ。「お客を巻き込むために何をやるか」「自分の表現を伝えるためにどうすべきか」という足腰の強さが、なんかもう、段違い。曽我部だってもうとんでもない回数の現場を踏んできて、そこで勝って来た男なわけで、そこらの若手も中堅もベテランも適わないタフなパフォーマーなんだけど、さすが、仲井戸麗市はくぐって来た修羅場の数が違う、ということだと思いました。
アンコールはふたりでセッション。全部で5曲。
1.アンコールセッション
2.江ノ島
3.きれいだね
4.上を向いて歩こう
5.遠い光
アドリブでジャムって交互に歌いまくった1と、ご存知4以外は、曽我部サイドの曲でした。2と3はサニーデイ、5は曽我部恵一ランデヴーバンド。つまり、チャボ・サイドの曲はなし、強いて挙げればRCでカヴァーしてた4だけ。というところにも、仲井戸麗市の度量の深さを感じるライヴでした。
あと、チャボさん、誰かとこうやってアコースティック・セッションする時は、1曲終わると相手に腕を伸ばして、ゲンコツとゲンコツをコツンとくっつける、というのを、いつもやるんだけど、私、曽我部とそれをやる図を見るのを、楽しみにしてました。このアンコールで何度も観れて、大満足でした。
なお、この『CHABOの恩返し』、次も発表になっています。次に恩を返される相手は宮沢和史、11月3日渋谷PLEASURE PLEASUREと11月4日名古屋クラブダイアモンドホール。このイベント以外にも、11月10日新宿ロフトの35周年イベントで田中和将&高野勲のユニットPermanentsと対バン、13日には泉谷しげるが(この季節に!)日比谷野音で行う震災復興イベントに「泉谷しげる×仲井戸麗市ロックオーケストラ!」として参加、19日南青山MANDALA&20日名古屋ブルーノートで、歌うマリンバ奏者新谷祥子のレコ発にゲスト出演。27日には福岡・西南学院大学のイベントに登場。12月には麗蘭で東名阪(※のちに神戸1本京都2本も追加)。そして大晦日にはソロでCOUNTDOWN JAPAN。
思わず年内のスケジュールを全部書いてしまいましたが、何が言いたくて書いたのかというと、去年60本のツアーをやって、それ以外にもいっぱいやって、だから今年はあんまりごっついツアーを組んでいない、という人の動き方ではないよ、これ。ということです。
去年が還暦なんだから、今年は御年61。で、この動き方で、あのライヴ、あのステージ。すごい。としか、言いようがありません。(兵庫慎司)