今年でデビュー20周年、新作『フー・ウィ・タッチ』を引っ提げての久々のザ・シャーラタンズ単独公演……と、簡潔に来日の意義を説明することは容易いが、実際はそんなあっさり紹介してすませるようなことではないような気がするのだ。
まず何と言っても、シャーラタンズのデビュー20周年がいかに画期的なことであるかについて改めて書いておく必要があるだろう。ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズ、インスパイラル・カーペッツと並んで80年代末~90年代初頭の「マッドチェスター・ムーヴメント」を牽引したシャーラタンズだが、前述の他のバンド達が既に解散している。つまり、90年代~00年代をサヴァイヴしたマッドチェスターのオリジネイターは、このシャーラタンズだけだと言ってもけっして過言ではないのだ。しかも彼らのそれは懐古商売による延命処置によって達成されたものではなく、コンスタントに新作を出し続ける現役バンドとしての成果である。
ロングヘアにスリムなTシャツ姿で登場したボーカルのティム・バージェスは、他のメンバーが順当に年を重ねているのと裏腹に、びっくりするほど若く、これまた現役感バリバリである。もともと童顔な人ではあったが、若いだけでなくロック・スターの色気をキープし続けるその様は、かのボビー・ギレスビーを彷彿させるものもある。
オープニングは懐かしの“Them”、そして“Weirdo”だ。これぞマッドチェスター、彼らのデビューの原風景を鮮やかに描き出すオープニングである。ハモンドオルガンがブカブカビービーと鳴り響く中、楕円形のグルーヴがゆらりと立ちあがってくる様に、マッドチェスターをリアルタイムで体験したと思しき30代を中心とするオーディエンスは一気にヒートアップする。
しかし、続く“Can’t Get Out Of Bed”で場内のムードはいきなり一変する。これはマッドチェスターと呼ぶよりもブリットポップの原型と称するべきナンバーで、直前までゆらゆらと緩いグルーヴに乗って横揺れしていたオーディエンスも瞬時に縦揺れにシフトチェンジ、そしてシンガロングが始まる。そう、シャーラタンズの最大の功績とは、彼らが90年代初頭のマッドチェスターと90年代半ばのブリットポップ、その両方において成功を収めた唯一のバンドであるってことだろう。言わばストーン・ローゼズからオアシスへと引き継がれたマンチェスター栄光の系譜を、たったひとりで描ききってしまった存在、それがシャーラタンズであったということだ。
ちなみに目の前で革ジャンを着た外人が奇声を発しながら目茶苦茶盛り上がっていたのだが、よく見たらカール・バラーだった。カールはリバティーンズ時代に何度もシャーラタンズをフェイヴァリット・バンドとして挙げていた人だが、恐らくカールにとっては『ザ・シャーラタンズ』以降の中期シャーラタンズが黄金期なんじゃないかと思う。後半の“North Country Boy”でステージに上り、ティムと一緒に嬉しそうに歌ってる様子を目の当たりにして、そんなことを思った。
“Smash The System”、“You’re So Pretty”といった新作『フー・ウィ・タッチ』からのダーク・エレクトロなナンバー(この人達はちゃんと時代性を反映した新作を作ってくる。それも凄い)を挟み、そして“One To Another”へ。“One To Another”を今改めて聴くと、シャーラタンズがローゼズ~オアシスのマンチェスターの系譜だけでなく、プライマル・スクリームからカサビアンへと引き継がれたUKアヴァンギャルドの先駆者でもあったことに気づかされる。
“The Only One I Know”、“North Country Boy”と90年代初期&90年代中期のそれぞれ代表曲が再び連打された後、本編ラストは“This Is The End”。そしてアンコールのラストは“Spropston Green”! 最初期のライブから常に最後のクライマックスを飾ってきた、これぞ「シャーラタンズ・グルーヴ」を象徴するナンバーである。
そう、この日、2010年11月25日に観たシャーラタンズのライブは、未だ現役で戦い続ける彼らの稀有な個人史を讃える内容であったと共に、90年代~2000年代のUKロックの幾多のエレメンツを博覧するようなあまりにも濃い、凄まじいライブでもあったのだ。(粉川しの)
シャーラタンズ @ 恵比寿リキッドルーム
2010.11.25