今月号の『気になるあいつ』は、NY出身・弱冠20歳の気鋭のSSW:ソンバー。これまでにリリースしたシングルは各国のストリーミングチャートに軒並みランクイン。日本でもじわじわ人気が高まりつつあり、SUMMER SONIC 2025への出演も決定。今、世界中から熱視線を集める超新星ソンバーとは一体何者なのか? マストチェックです!(rockin’on 2025年8月号掲載)
(文=粉川しの)
例えば2018年のサマーソニックで、ブレイク前にビリー・アイリッシュがブッキングされ、結果的にブレイク真っ只中の彼女をド新人枠のソニック昼帯で観るシュールな事態となったように、未来のスターがいち早く登場し、彼らの開花の瞬間を目撃できるのがサマソニの醍醐味の一つでもある。今年のサマソニでも、同様のドラマが生まれそうだ。主役はもちろん、このソンバーだ。
目下、彼の“back to friends”と“undressed”は、SpotifyのデイリーチャートでUS/UK共に連日トップ5に名を連ねており、“back to friends”は3億回、最新シングルの“undressed”はリリースから僅か3ヶ月で2億回再生に迫る勢いと、猛烈なバズを巻き起こしている。半年前までほぼ無名だったにも拘らず、彼はビルボードでも早々にトップ40入りを果たし、今後の更なる飛躍が約束されている状態だ。
ここ日本でもすでにラジオでガンガンかかり始めており、サマソニに向けてとにかくマストでチェックすべき超新星、という認識が浸透しつつあるのではないか。破竹の勢いでブレイク街道を直走っているソンバーとは、一体何者なのか? と。
まずは現在のソンバーのアーティスト像を整理すると、彼は①昨今の男性シンガーソングライターの王道回帰現象、ベンソン・ブーン以降の男性SSW2.0の系譜に連なる新星。②d4vdやJVKEと比較される、メロウポップの新たな貴公子。③テイラー・スウィフトとアーロン・デスナーのタッグや、ハリー・スタイルズの『ハリーズ・ハウス』を契機として、メジャーポップ側からインディロックへの接近が急速に進んだ2020年代(2010年代とは真逆のベクトルであることに注目)、インディロックがネオポップと化した時代の象徴、ということになるだろう。いずれにせよ、ブレイクの速度に情報が追いついていない状況だと思うので、改めて彼のプロフィールをまとめておくことにしよう。
「Sombr」と書いて「ソンバー」と読む彼の本名は、シェーン・マイケル・ブース。NY出身、現在はロサンゼルスを拠点に活動を続けているソンバーは、2005年7月5日生まれなので、つい先日やっと20歳になったばかりという若さだ。コロナのロックダウン中に独学で作曲を学び、弱冠16歳の時にデビューシングル“nothing left to say”を発表。翌年のシングル“caroline”がプチバイラルになった段階で、美術系の名門として知られるラガーディア高校を中退し、シンガーソングライターの活動を本格化させていった。
とは言え、当時のソンバーを知っていたのは、限られたネット上の同世代だけだった。彼がフルセットのライブをやり始めたのは2024年以降のことで、キャリアが実体化したのは、やはり昨年12月の“back to friends”以降と捉えるべきだろう。フィービー・ブリジャーズやボーイジーニアスとの仕事で知られるトニー・バーグがプロデュースした同時期の音は、今よりもずっとフォーキーかつオーガニックで、当時のソンバーは歌声、ビジュアルも含めてジェフ・バックリィを彷彿とさせるものがあった。
彼は影響を受けたアーティストとしてThe 1975やレディオヘッドと共に、ボン・イヴェールやバックリィの名前を挙げており、インディロック志向とSSW志向とを兼ね備えた背景が窺える。The 1975からのという意味では、セルフプロデュース曲の“back to friends”はモロにそれが反映されていたナンバーだ。古典的オルタナのギターリフ、薄衣を何層も重ねたアトモスフェリックな音響、思わず口ずさんでしまうキャッチーなメロに乗せ、《どうやったら友達に戻れるんだろう、君とベッドを共にしていたのに》という失恋と未練を美しく昇華した共感度抜群の歌詞と、TikTokヒットの定石を全て押さえた同曲は、前述の「ネオポップ化したインディロック」の典型例だろう。
一方、トニー・バーグ・プロデュースの“undressed”は、ソリッドなベースラインや生っぽい歌声が際立つ、シンプルで骨太な作りになっており、ネオポップ要素に前述のオーガニックな持ち味を加味、今後ソンバーの個性は同曲を軸としていく予感がある。
最後に彼のライブの話を。ソンバーが初のプロパーなツアーを始めたついこの間のことだが、アコギ片手に思春期の哀しみを歌う静謐な瞬間と、2メートル近い長身を捻り折り曲げながら、思春期の揺らぎをシャウトに込める瞬間が交錯し、どの会場も悲鳴と合唱で凄まじいことになっている様子がTikTokに大量にアップされている。そんな彼にとって、初のフェス出演となるのがなんとサマソニだ。彼にとっても、私たち日本のオーディエンスにとっても、二重三重にメモラブルな夏になりそうだ。
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