同じ「2人バンド」でも、ホワイト・ストライプスのように己のサウンドにフル・バンド顔負けの極太ブルーズと超人的なパワーを宿らせるわけでもないし、ザ・ティン・ティンズのように爆裂エレポップを爽快にぶん回すのでもない。そこにあるのは、ワンピースにカーディガンをまとってテレキャスを担いだギター&ヴォーカルの美少女と、やたらどたばたと手数王なくせに忙しくハイトーン・ヴォイスで叫びまくるドラム&ボーカルの美少年が、世界の片隅で、武装もへったくれもなく、それでも世界と真っ向から対決するためにかき鳴らすグランジだ。爽快なディストーションでもってベース・ライン/リフとコード/フレーズを巧みに繰り出すローラのギターも、もっと鋼鉄轟音にしたければいくらだってできるし、たとえば電子音のシーケンスなどを加えればスティーヴンのリズムも格段に性能UPするかもしれない。しかし、この日のアクトを観て、改めて思った。4つ打ちダンス・ビートやソウルフルなリズムなど多彩なグルーヴを駆使しながらも、その徒手空拳の孤独なロックンロール感にこそ、彼ら2人は用があるのだ、と。
そう考えると、“I'm Getting Boring By The Sea”や“You Bring Me Down”といったデビュー時点の楽曲からすでに、彼らの目が「この2人で鳴らすパンク/グランジ」に向いて作られていたことがわかる。たとえカーディガンの美少女であろうと、たとえ細身の色白美少年であろうと、このバンドで世界と向き合うには、3ピースでも「武装過剰」だったのだろう。だからこそ彼らの音楽は、「3ピースのポスト・パンク・マイナス・ベース」ではなく「ドラムとギターと歌で鳴らすグランジ」としてのリアルな表現たり得ているのだ。フロアの前半分は終始跳べや踊れや歌えやの大熱狂状態。後ろ半分の男性客がじっとステージを凝視していたのは、ノリにくかったとかいうことではなく、時折カーディガンをはだけさせながらギターをかきむしるローラの艶姿に静かに萌えすぎていたせいだろう。本編13曲+アンコール3曲で1時間強。パワフルで、ナイーヴで、ひりひりと胸に刺さるライブが幕を閉じた。
余談だが、この2人には「カウント」がない。いきなりスティーヴンがビートを刻み出すか、あるいはスティーヴンが長い手を掲げてローラと呼吸を揃えてジャン、という感じ。いわゆる「1、2、3、4!」とハイハットやスティックでリズムを合わせることをしないのだ。あれには何かこだわりがあるに違いない。
もう1つ余談。スティーヴンの叩き方を見てて「誰かに似てるな」と考えて、気がついた。元NUMBER GIRL/ZAZEN BOYS、現VOLA & THE ORIENTAL MACHINE/BEYONDSのアヒトイナザワだ(VOLAではドラムは叩いてないが)。スティックの軌道から、スネアを連打する時の胸の張り方/肘の畳み方、小気味よくツッコんだりモタったりしながらうねるグルーヴを作っていく感覚まで含めて、驚くほどそっくり。といっても、この面白さは邦楽聴かない人には伝わりにくいかもしれないが。(高橋智樹)