“TRUE COLORS”」としてスタートした。2024年にHIKAGEの「Happy TOUR 2024」に組み込まれるかたちで行われた「Vol.2」を経て、2025年8月22日。渋谷clubasiaに舞台を移し、彼らは再び無料ライブというスタイルに挑戦した。さまざまな要因でチケット代が高騰している昨今、無料という決断は生半可な覚悟で下せるものではない。
『ROCKIN’ON JAPAN』10月号でHIKAGEにインタビューした際、GEN(Vo)は「P.H.S」への思いをこう語っていた。
「仲のいい2バンドと新しいムーブメントを起こしたいというところから始まって、とにかく無料でやってみたかったんです。いちばんの理由は、観てもらえる機会を増やしたいということ。若者でもこれだけすごいライブをかましているんだっていうことを知るきっかけになってくれたらいいなと思っています。いろいろなバンドが活発にツアーをやっていて、フェスもたくさんある中で、お金のことを考えると若い子たちはライブを選ばなきゃいけないだろうし。そういう理由でかっこいいバンドを観られないのはもったいないと思うから、無料なら行ってみようかな?くらいのノリでみんなに来てほしい」
結果的に、今回のチケット予約には会場の定員を大きく上回る1300人以上の応募が集まったという。ラウド/パンクシーンでは、常にDIY精神を持つバンドたちがこうした挑戦を重ね、時代を動かしてきた。敷かれたレールに乗るのではなく、自分たちの手でムーブメントを起こす──音楽性はバラバラだけれど、同じ意志を持った3バンドの結束は固い。三者三様だからこその音楽的刺激と、未来への可能性が溢れていた一夜のレポートをお届けする。
●See You Smile
助走ゼロで暴れ始めるオーディエンスに、「音楽にジャンルは本気で関係ない。かっけえやつはかっけえし、俺たち『P.H.S』は絶対かっこいいバンドだから。今日は全員、俺たちのかっこいい音楽で、全力で遊んでいってください! 笑って帰れよ!」とRui(Vo)が叫ぶ。その言葉通り、メロディに合わせて拳が突き上がる“DND”、盛大なシンガロングが湧いた“The Anthem”と、曲を届けるたびにフロアに笑顔が増えていった。
●PROMPTS
PKが「今の世代が自分らで動かして、客がどんどん集まって……そしたら、みんなと一緒に、俺らの先輩たちが見なかった新しい場所に行くことができるから。これからも俺ら、こういうムーブをガンガンやりたいと思ってます。アジアのシーンがどれだけヤバいかを世界に広げていきましょう!」と語り、3月に発表したばかりの新曲“Stranger (feat. Landon Tewers)”へ。ハングルを取り入れた“Edgerunner”など、叙情性とメッセージ性を併せ持つ独自のメタルコアを立て続けに投下し、世界照準のライブを見せつけた。
●HIKAGE
“F.P.P”で幕を開けると、ISSEI(Dr)とWataru(B)が生む力強いリズムに合わせて一斉にジャンプし、ダイブやモッシュも大量発生。ギラついた野性的な目つきでオーディエンスを煽るGENの声が、その熱をさらに上げていく。この曲で拳を突き上げながら全員で叫ぶのは《We all die someday》という歌詞だ。一見ネガティブなワードに見えるかもしれないが、この場では真逆の意味を持つ。──俺たちはみんないつか死ぬ。だから全力で今を生きろ、と。
その思いをポジティブな音に変え、「遊ぼうぜ!」とキャッチーな“Before Sunrise”、“NO WAY”を畳みかける。PROMPTSのライブとは音色やスタイルを大きく変えたYasuiと、Halki(G)の鋭いギターに導かれ、“NO WAY”ではSee You SmileのRuiが乱入してツインボーカル状態に。仲間同士で作るアットホームさと、お互いの個性を容赦なくぶつけ合うバトルが共存しているのが「P.H.S」だ。
この日のHIKAGEは、1stアルバム『True Colors』を完成させてリリースを待つのみという絶好のタイミング。まさに新たな扉を開いて飛び出していこうとしているバンドのエネルギーは、やはり今年発表された新曲群にこそ漲っていた。
GENが「新しい世代を作っていくんで、よろしくお願いします!!」と宣言しての“YAIBA (feat.タナカユーキ(SPARK!!SOUND!!SHOW!!))”は、日本語詞に挑んだ彼の想いが刻まれた攻撃性全開のミクスチャー。《どうせ死ぬからはじめりゃいいだけさ》《不味い飯食って良い音楽やる》というパンチラインが、バンド一丸となったサウンドとともにオーディエンスに襲いかかった。続く“CALLING”は、一転してGENがのびやかなメロディを歌い、エモーショナルなムードに切り替わる。
そして、最新曲“傷”。ISSEIのドラムを合図に、疾走するビートと噛みつくようなGENのボーカルが炸裂する。ジャパニーズハードコアに振り切ったアプローチと同時に、Yasui&Halkiの重奏的なギターワークやWataruのベースが牽引するグルーヴィなパートも印象的で、HIKAGEの新しい武器として覚醒していた。
結成以来ライブハウスシーンを生き抜き、さまざまなフェスや対バンで闘ってきた楽曲があるだけでなく、新曲の爆発力が凄まじいというのは特筆すべきことだ。さらに、インタビューで手応えと自信を熱く語っていた通り、ニューアルバム『True Colors』の曲たちも確実に新しい武器となるだろう。これからのHIKAGEにますます期待が高まった。
改めてマイクを取ったGENから、2026年7月2日、なんとZepp Shinjukuにて「HIKAGE Pre. P.H.S Vol.4」の開催が決定したことが発表された。もちろんチケット代は無料。今回のチケット応募数という実績があるとはいえ、約2倍となるキャパシティはかなりの挑戦と言える。
そんなフロアを見渡し、「みんな、幸せになってくれ!」と“Happy”へ。愛情をアグレッシブなサウンドに乗せるバンドと、モッシュピットを作り全力で楽しむオーディエンス。ステージ袖から、PROMPTSとSee You Smileのメンバーが笑顔で観ている姿も微笑ましい。トドメに、バウンシーなヘヴィチューン“SiCK”を投下。GENが2階に上ってフロアへダイブするという展開でカオス状態を生み出し、会場全体がひとつになって灼熱のエンディングを迎えた。
HIKAGEは、9月3日にアルバム『True Colors』をリリースし、PROMPTSを含む多彩なバンドをゲストに迎えた対バンツアーとワンマンライブに向けて動き出している。PROMPTSとSee You Smileも、それぞれの場所で自分たちの音楽を磨きながら、2026年7月を見据えて歩いていくのだろう。1年後に顔を揃えた3バンドと、オーディエンスというたくさんの仲間たちがZepp Shinjukuでどんな空間を作り上げるのか。個々の活動に注目しながら、その日を待ちたいと思う。(後藤寛子)
「HIKAGE Pre. P.H.S Vol.3」
2025.8.22 渋谷clubasia
●See You Smile/セットリスト
01. In and Out
02. Y.D.S
03. Do It
04. Shining
05. DND(GNAR GNAR GNAR)
06. The Crisis
07. I Wanna Die
08. The Anthem
09. Teenagers (feat.Yasu from Good Grief)
10. Stereo Gang
●PROMPTS/セットリスト
01. Sun Eater
02. Black Pill
03. Face Me
04. Möbius
05. Stranger (feat. Landon Tewers)
06. Edgerunner
07. Asphyxiate feat. Ryo Kinoshita
08. Empty Sandglass
●HIKAGE/セットリスト
01. F.P.P
02. Before Sunrise
03. NO WAY
04. YAIBA (feat.タナカユーキ(SPARK!!SOUND!!SHOW!!))
05. CALLING
06. 傷
07. Happy
08. SiCK
提供:HIKAGE
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部