が、この日のアクトが冒頭の「大歓声!」というノリになったのは、実はライブが中盤戦に差し掛かってからのこと。髭に限らず、いわゆるライブの展開定番である、「最初どかーんと盛り上がって、その余韻を受けて中盤抑えめの曲でチルアウトして、終盤もう1回どかーんとなって終了」という流れであれば、序盤にひと盛り上がりし終わって、そろそろまったりした曲に移ろうか、というくらい時間が経ってからのことだ。
19:20に5人が登場……すると、須藤は腰掛けてアコギを構え、ミドル・ナンバー“ダブリン”を抑えた調子で歌い始める。最近はメイン・ドラムを担当することも多いパーカッション=コテイスイにビートを任せ、ドラマーのフィリポはキーボードの前に座ってピアノのループ・フレーズを淡々と弾いている。「須藤アコギ体制」のまま、“王様はロバのいうとおり”“僕についておいで”のクールかつディープな演奏、そして“ダイアリー”のイントロでは「須藤:歌詞の朗読、斉藤=ストリングス奏法で不穏かつアンビエントなギター・サウンド大放出、フィリポ:鍵盤でグロッケン風サウンドを弾く」という見たことのない編成になり、続く“君のあふれる音”ではフィリポ鍵盤のグロッケン・サウンドに加え、メロトロンのフルート・サウンドっぽい音を斉藤が鍵盤で奏でる……のを尻目に、ベース・宮川がすたすたと袖に引っ込んでしまう。フロアを埋め尽くした1人1人の顔に「?」マークが浮かび、困惑と緊迫感が会場に満ちていく。
とはいえ。髭の曲をご存知の方なら、下記のセットリストの、特に頭5曲が、フロアがどっかんどっかん沸いたり腰が砕けるほど踊りまくるようなナンバーではないことは一目瞭然だろう。彼らはあえて、挨拶代わりにとりあえず盛り上がっとこうか?的な「お約束」としての展開をぶっ壊そうとしたのである。そして……その後の混沌エレクトロな楽曲“electric”の中盤、スティックを持った須藤が力任せにタムを叩きまくる場面で、5人+1人(こちらもお馴染み、ウサギの覆面=DJシラフだ)のアンサンブルが眩しいくらいに炸裂! 低空飛行から一気に成層圏まで急上昇したようなライブのテンションを、そのまま雪崩れ込んだ“ミートパイ フロム ロシア”でさらにじっくりと育て上げ、次の“寄生虫×ベイビー×ゴー!”でようやく須藤がいつもの黒のテレキャスター・デラックスを手にすると、いよいよロックンロール・ジェット・エンジン点火!な勢いでアガる一方。本編終了までその出力が落ちる気配すらなかった。
アゲてチルアウトしてまたアゲて終わり、という「いつも通り」の見慣れた展開なら、今や髭はいつでも作れるだけも曲もポテンシャルも持っている。が、「いつも通り」の単なるコミュニケーションの再生産ではスリルもやる意味もない。S魂炸裂の狂騒おあずけプレイ? 敵(シーン)を欺くにはまず味方(ファン)から? いや、至ってストレートにライブというコミュニケーションの在り方を考えたからこそ、こういう普通じゃない、それでいて緊迫感と爆発力を持ったライブを作り上げたのだろう。「CLUB JASONにふさわしい曲を」と披露したドアーズの“ハートに火をつけて”爆裂カバーを挟んで、“D.I.Y.H.i.G.E.”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”と必殺曲でステラボールを完全支配。「俺たちにぴったりの場所を見つけたみたいで嬉しいよ! やっぱり今日は品川だったね。品川でみんなと会えてよかったよ!」と、須藤も満足げだ。「楽しかった」を連発していた彼だが、その「楽しかった」という果実はいつものライブとは違った格別の味だったことだろう。
アンコールに応えて登場した須藤。「人生で、品川でアンコールもらったの初めてかも! こんな上品な街で!」のすっとぼけたMCにさらに沸くフロア。DJシラフにタンバリン叩かせての須藤弾き語りで“ボニー&クライド”、そしてメンバーとともにCM絶賛放映中のダルでメロディアスな名バラード新曲“青空”を披露。「アンコールで歌モノ2曲もやって帰りづらくなるバカもいないだろうって? でも、次も新曲なんだよな」という須藤の声に導かれて、すでにツアーでやっていたらしい新曲へ! ポップで泥臭いロックンロールからサビで一転、ブレーキ壊れたモータウンみたいなポップ感と逆ギレ爆発力を見せる最高のナンバーだ。自らのひねくれ感も雑念もかなぐり捨てて、時速300kmで走るぞ!とでも言うような爽快さに満ちていた。ダブル・アンコールでやっていたもう1つの新曲も「3、2、1、0!」というカウントダウンでオーディエンスの頭のタガを気持ちよく外していくカオティックなアンセムだし、ネクスト髭への期待感がさらに高まったところで、最後は“ロックンロールと五人の囚人”で完全燃焼!
もはやひねくれたりスカしたりする必要もない。サイケな中毒性もグランジの爆発力も錯乱も皮肉も、ど真ん中ストレートな曲に昇華して叩きつければいい……そんな確信に満ちた彼らは、やっぱり日本のロック・シーンになくてはならないバンドだ。足掛け7年彼らを観てきたが、改めてそう思った。ちなみに、終演後にメンバーに話を訊いたら、この日の展開はやはり「作戦通り」だったようだ。「こういう始め方は結構、こっちが緊張しますよね」と斉藤。「途中、やることなくなったんでハケちゃって。『いい曲だなあ』って観てました(笑)」と宮川。そして須藤は「ゆくゆくは全曲このまんま(序盤の調子)で、っていうライブもやってみたいんだけどね。それはもっと音楽的に成長してからでないと」。……。首謀者はまだまだ全然やる気のようだ。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.ダブリン
02.王様はロバのいうとおり
03.僕についておいで
04.ダイアリー
05.君のあふれる音
06.electric
07.ミートパイ フロム ロシア
08.寄生虫×ベイビー×ゴー!
09.溺れる猿が藁をもつかむ
10.Mr.アメリカ
11.ドーナツに死す
12.ハートに火をつけて(THE DOORSカバー)
13.D.I.Y.H.i.G.E.
14.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
15.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
16.ダーティーな世界(Put your head)
17.ハートのキング
EC1-1.ボニー&クライド
EC1-2.青空
EC1-3.新曲
EC2-1.新曲
EC2-2.ロックンロールと五人の囚人