ミュー @ 渋谷 CLUB QUATTRO
2017.09.05
2015年のサマソニ&単独から2年ぶりとなったミューの来日公演である。初日の昨夜は渋谷 CLUB QUATTROという小キャパな会場だったこともあり、チケットはソールドアウトで場内はギッチギチに埋まっている。ここ日本でも15年近くにわたって根強い人気を誇る彼らだが、その吸引力となってきたのが別世界へと誘う彼らのライブ・パフォーマンスだ。
ちなみに、霞を食べてそうなフェアリーで繊細だった世界を出発点に、ダークでメタリックな筋肉強化を果たしたり、よりプログレッシヴな構築性を追求したりと、歳月と共に進化を続けている彼らのライブだが、その時々の最新アルバムのモードによって、「リアリティ成分」と「ファンタジー成分」の比率が変動するのが面白い点でもある。そしてその点では、新作『ヴィジュアルズ』を引っさげての今回のツアーはリアリティ成分がかなり勝っていたライブだったと言える。
オープニングの“In A Better Place”から、4つ打ちのダンス・パンクと化していた“Special”、壮大な宇宙を模したスクリーン映像を含め、そのアンビエントでサイケデリックなニュアンスの角をぴしっと揃えていくような、ソリッドなギターが光っていた“The Zookeeper's Boy”、そして恐ろしくキャッチーなエレポップ・アンセムにも聞こえた“Satellites”と、ショウの前半はまさにリアリスティックで醒めたパフォーマンスが続いた。
イマジネーションを飛躍させていくよりも、ひとつの答えに向けて要約していくように、すべての出音をグッと胸元に引き寄せていくプレイなのだ。つまり、意外なほどオーソドックスなロック・バンドのフォーメーションに則ったものだったのが今回の特徴で、しかもメタリックでハードな音圧で制していくプレイだった前回来日時とは異なり、今回のそれはポスト・パンクやガレージとの親和性が強い、引き算のアンサンブルだった。
また、今回は前述のポスト・パンク的アプローチや、新作『ヴィジュアルズ』におけるダンス・ビート感覚の強化と相まって、リズム・セクションが楽曲を牽引するパターンも目立った。復帰後のヨハンの発奮っぷり、もとい活躍は本当に目覚ましくて、そんな彼が全身を使って弾き出すベースの威力もあって、どの曲もバウンシーでリズミックな起伏が生じている。一曲の中で何度か人格を変えるように変調していくヨーナスのボーカルが、未だかつて無いほどダイレクトに響いていたのも印象的だった。
ただしショウの後半、“Twist Quest”あたりからは徐々にファンタジー成分の比率が増していき、複雑なニュアンスを幾重にも重ねて膨らんでいく、ミューお得意のスペクタクル展開が次々に繰り広げられていく。どちらかと言えばコンパクト設計な『ヴィジュアルズ』の中で最もエピックなナンバーである“Carry Me To Safety”、が本編ラストを飾るセットリストもパーフェクトだった。
また、今回のショウはミューというバンドの歴史を横断し、過去と現在をぐるっと周回した地点で結び合わせるような感覚を強く覚える内容でもあった。『ヴィジュアルズ』の中でも最もモダンなダンス・ロック・チューンであり、The 1975以降の流れとシンクロしているとすら言える“85 Videos”から、ミューきってのクラシック・チューン“Am I Wry? No”に橋渡しされたアンコールは、とりわけその新旧融和を象徴する流れだった。
セカンド・アンコールの〆はもちろんこの曲“Comfort Sounds”。真冬の巣ごもりのように室内楽的でバロックな出発点からひとつずつ箍を外していき、最終的に宇宙的カタルシスへと至る今回のパフォーマンスは本当にドラマティックで、リアリティとファンタジーの狭間を行き来し続けるミューらしさを凝縮したエンディングだった。(粉川しの)
〈SET LIST〉
1. In a Better Place
2. Special
3. The Zookeeper's Boy
4. Satellites
5. Candy Pieces All Smeared Out
6. Introducing Palace Players
7. Snow Brigade
8. Start
9. Twist Quest
10. Water Slides
11. Apocalypso / Saviours Of Jazz Ballet
12. Carry Me to Safety
Encore:
13. 85 Videos
14. Am I Wry? No
15. 156
Encore 2:
16. Comforting Sounds