ジ・インターネット @ LIQUIDROOM ebisu

未来的ともノスタルジックともいえる情感とグルーヴを漂わせるモダン・ソウルを紡ぐジ・インターネット、最新作『エゴ・デス』を引っ提げての来日公演。ヴォーカルのシド・ザ・キッドはオッド・フューチャーのメンバーとして来日も経験しているが、もちろん、ジ・インターネットとしては初めての公演で、この独特なソウルがとても好きなので期待感が募るライヴだ。

特にユニットとしてのジ・インターネットはセカンド『フィール・グッド』で出来上がって、シド本人もこの時バンドとして形になったと語っているが、逆に『エゴ・デス』ではバンド演奏ではなく、各メンバーがビートを持ち寄って音を構成していくというヒップホップ的なアプローチで作って新たな強度を獲得できたとシドは説明していたので、そのサウンドがライヴではどう進化していくのか興味津々だった。会場に足を運んでみると、かなりの人出で最後方でもぎゅうぎゅうの状態で、女子も多い。シドとマット・マーシャンズが軸となった、この突然変異的アーバン・ソウルが実際に求められている熱を感じてなにやら盛り上がる。

会場が暗転して始まったのは『エゴ・デス』からの"Get Away"で、のっけから新作モードで攻め立てていく展開。特にこの曲はシドの独特な歌詞的世界をそのダークなグルーヴとともに前面に打ち出す楽曲だけあって、とても強烈。シドの歌詞と歌はほとんど常にといってもいいほどパートナーとの機能不全に陥った関係を綴るものになっているが、この曲は特にアーティストとして自分がそこそこ成功しかかっているのに自分の日常と関係は相変わらずぽんこつなまま、というかなりリアルな内容が綴られている。不穏なグルーヴがさらにその心情をたたみかけていくのだが、ライヴではさらに重厚感が加わってシドの佇まいや存在感にオーラを漂わせることになっていた。続いては"Gabby"で、これも新作の2曲目なので、ほぼ新作モードで押し倒すのだとわかってとても嬉しい展開。アルバムではどこかメカニカルなスロー・ファンクとして作り上げられていて、この曲の内容のよそよそしさをうまく伝えるものになっていたが、ライヴではリズムに肉が詰まった感じの迫力も備わっていて、曲のテーマのよそよそしさの水面下にある、それでもあなたが好きなのにという情念が立ち上がってくる感じがとても素晴らしかった。

3曲目もまた新作の3曲目に収録された"Under Control"で、これがまたすばらしくメロウなファンク・バラードとして披露され、この日のライヴの出来を保証するような演目に。続くセカンドからの"Partners in Crime Part Two"の強迫的な歌詞と圧倒的な演奏でたたみかけていくパフォーマンスは圧巻で、このバンドの持つ独特な凄味を感じさせる一幕だった。

中盤に入ってからは軽快なビートの"Something’s Missing"、そしてこれに続く別れとその後日譚を組み合わせた"Just Sayin’/I Tried"が個人的に一番好きな曲だけに感無量なくらいにかっこよかった。しかも、ドゥウェレの名曲"Find a Way"をネタにした節回しが殺人的に切なくて素晴らしい。後半からはギター・バラードへと転調する展開になるが、ライヴだとこのパートが訴えかける勢いが強くて、よりドラマチックな内容となっていたのが印象的だった。この辺からはもう余裕もたっぷりある演奏となり、その後も新作をメインに9曲ほど披露。かなりがっつりシドとマットとバンドのパフォーマンスを満喫できることになった。締めはセカンドからの"Dontcha"とファーストの"The Garden"となった。

それにしても、このバンドの卓越したパフォーマンスとあまりにもセンスのいいサウンドと楽曲がどこかミスマッチな感触でひとつにまとまっているところはとても現代的で刺激的だし、かっこいいと同時にとても切なく、ライヴでなおいっそうそのことは確認できた。シドの声量のなさにはいろいろ意見もあるかもしれないが、もともとプロデューサー志望だったのがやむなくソングライターとなって現在ではヴォーカルまでやることになったという人だし、歌詞の内容がもはやこのヴォーカルでしかありえないものなので、これが一番いいのだ。どこかポスト・パンク期のバンドのような雰囲気もあって、また惚れ直しました。(高見展)
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