ボーカリスト・詩音とコンポーザー・木天蓼からなる音楽ユニット・
秘めごとが、メジャーデビュー後初の作品としてリリースしたミニアルバム『くろいもり』は、なんと「絵本仕様」。これはどういうことかというと、木天蓼がストーリーを書き上げた絵本と、7曲入りのCDがセットになって発表されている。もちろん、7曲それぞれ、絵本の物語を読まずして音楽単体で聴いてもいい。強靭なバンドアンサンブルの中で、詩音と木天蓼の内側から出てきた感情や人生が溢れ出ている。それでいて、7曲通しての流れが絵本の物語全体に沿っていると捉えることもできるし、情景の異なる7曲がそれぞれ絵本に別の角度から光をあてるような内容にもなっている。そこには秘めごとなりのパンク精神もある。秘めごとが『くろいもり』の音楽と絵本に込めた、受け手への大切なメッセージを預かってきた。
インタビュー=矢島由佳子 撮影=三川キミ
秘めごとの大前提として日常に寄り添えるものにしたいという想いがあって、何か扉を増やしたいなと思った中で考えたのが絵本だった(木天蓼)
──1stミニアルバム『くろいもり』を、CDと絵本のセットで発表するというアイデアは、どういう想いから生まれたものだったんですか?木天蓼 そもそものきっかけとなったのは“リンネ”と“夜想曲”で、その2曲が今までの秘めごとからしてもわりとダークで、オルタナ色が強めのものになってしまった⋯⋯いや、なったのか(笑)。僕の中でそういうものを表現したいという欲求のメーターが振り切れてしまって、その2曲ができたんですけれども。でも詩音さんに歌を入れてもらったら、やっぱりちゃんと秘めごとになったし、ダークな曲なんだけどちゃんと優しさもポップさもあるし、これは詩音さんの新しい魅力も秘めごととしての一面も見せられるんじゃないかと思った瞬間に、思考がガチッとそっち寄りにいって、シュールレアリズム的な思考回路にズドンって入っちゃって。とはいえ、このままだと入口が狭すぎるというか、マニアックと捉えられる可能性もあると思ったし、秘めごとの大前提として日常に寄り添えるものにしたいという想いがあったので、何か扉を増やしたいなと思った中で考えたのが絵本でした。
──前回のインタビューで、木天蓼さんが芸術全般に興味があることを伺っていたので、てっきり「絵本と音楽を合わせて表現したい」というところから始まったのかと思っていたんですけど、そうではなく、今言ってくださったような順番だったんですね。木天蓼 そうなんです。絵本と曲が一緒になった作品ということは、絵本を見ながらミニアルバムを聴いても成立するようにしないといけないし、曲単体で聴いている人にも世界観が伝わらないといけないし、アルバムだけを聴いた中でもストーリーが成立していないといけないし⋯⋯というところで、めちゃくちゃ時間を費やしました。絵本のどのページでどの曲を流してもちゃんとそのページにマッチングするというふうにもしたし、ページをめくりながらゆっくりアルバム全体を聴いたとしてもすべての曲が絵にマッチングする、という作り方をしたつもりです。⋯⋯詩音さんは、メジャーの最初がこれでいいのかって言ってたよね(笑)。
詩音 ちょっと不安もありました(笑)。でも木天蓼さんの中でやりたい世界観のイメージがはっきりあったので、話を聞いたときは面白そうだなと思いました。
──絵本を作り上げるという作業自体、秘めごとや木天蓼さんにとって初挑戦ですよね。それだけでも相当時間がかかったのだろうなと想像します。表紙にシルバーでタイトルをプリントしていることや紙質など、細かいところへの妥協なきこだわりを感じました。木天蓼 本当に、妥協なきです。しかもどうしても背表紙をつけたくて、これまた結構予算が(笑)。表紙をめくったときの紙1枚の色を選ぶのにも時間がかかりました。最初は違う色にしていたんですけど「なんかちょっと違うな」ってなって(最終的には紫色の紙が挟まれている)。さらにカバーを外すと、本の中には出てこないシーンが描かれているというギミックがあって⋯⋯これは気づいている人はいないかもしれないです。こういったことも、絵本の楽しみ方としてどうしても入れたかったんですよね。そして何より時間を費やしたのが、どこを漢字にして、どこをひらがなにするかということ。それが考えれば考えるほど難しくて。僕、絵本コレクターと言えるくらいいっぱい持っているんですけど、絵本を作っている人たちは1冊作るのにこんなに考えているんだと思い知りました。
現実的にはありえない表現の仕方で、見ている人の中にそれぞれの答えがあるものが、「シュールレアリズム」(詩音)
──「シュールレアリズム」という言葉が前回のインタビューでもたびたび出てきて、今の秘めごとや今作においても大事なキーワードであると思うので、今日は改めてふたりが考える「シュールレアリズム」について深掘りしようかなと思っていたんですね。ふたりにとって、シュールレアリズムの定義とは?木天蓼 調べると一般的には、意識したものを意識して見るのではなく、まったく意識していなかった無意識なものに意味を持たせて、それを深く考えていく、といったことが出てくると思うんですけど、僕の解釈では──パズルがあるとして、それを順当に組み上げていったらその通りのものができるけど、パズルって、違うけどはまっちゃうピースがあったりするじゃないですか。そういうところをぐちゃぐちゃに当てはめて組み合わせていくと、たとえば風景が変に重なっちゃったり、人間の顔が変にずれちゃったりというものができあがると思うんですけど、そこに自分で何か意味を持たせる。その意味というのは、確実に無意識の中から生まれたものだと思うんです。それをみんなが見て、さらに新しい想像を増していく。それがシュールレアリズムかなというふうに思っています。
詩音 個人的には、夢や非現実的なもので、答えがないものかなと思っていて。現実的にはありえない表現の仕方で、それをいろんな人が見て、それぞれの想像や答えが生まれる。「見ている人の中に、それぞれの答えがあるもの」な気がします。
──きっとこれまで、特に木天蓼さんは作家仕事もやる中で、理論や理性から曲を作ることが多かったのだろうなと想像します。そういったところから離れた音楽を作りたいという気持ちがあったのかなと。木天蓼 もうまさしくです。なので、作り方を大幅に変えました。人の感覚にいちばんダイレクトに入ってくるのは歌詞や言葉だと思うんですけど、実を言うと今回の曲は、音としても風景や心象が届きやすいギミックを細かく仕掛けたんですよ。BGMに歌詞が乗っているという解釈の作り方をした感じですね。歌詞と曲のリンクをより深く広げるために、一つひとつの楽器の音の作りを意識したり、たとえば心臓音を意識している部分があったり、わかりづらいとは思うんですけど、いろんな音のギミックが入っています。でも僕が難解にしてしまったものや、自分でも未知なる部分を含めて作った曲を、詩音さんが僕が見えてなかった目線で歌ってくれると、「あ、この曲ここにいたんだ」「この曲ってこうだったんだ」って自分の中で広がるんですよね。
詩音 木天蓼さんが考えている世界観を、私はシンプルに受け取って歌で表現しているので、そこが合わさって秘めごとの音楽ができているのかなって思います。そこが一緒だとどんどん突き詰めていっちゃうけど、私は自分なりに受け取って、全然違う答えを出しているので。この制作中、木天蓼さんが「もう疲れた」「流行りの音楽とかを考えて作るのが嫌になった」みたいなことを言っていて。あんまりそういうことを聞いたことはなかったので、今までは一緒に共有しながら曲を作ることが多かったんですけど、今回は木天蓼さんの中でイメージがはっきりあるんだなと思って。アレンジのときとか「このシェイカーの音、ちょっと大きくないですか?」って言っても、「これは虫が飛んでる音をイメージしているから小さくしたくない」と言っていて、木天蓼さんの中でイメージしている世界があるんだと思いました。それを理解しつつ、木天蓼さんの世界に自分も入って歌うことを意識していました。
──そういったふたりの組み合わせがまた、さっきおっしゃったような、パズルのピースがきれいにはまるのではない面白さを生んでいる、ということですよね。木天蓼 そうです。「詩音さん、ここにこのピースをはめるんだ!?」みたいな。僕も見えてなかった部分が、最後に詩音さんの歌が入ると見えてくるんですよね。これまでは景色が見えている中で最後にピースをはめていたようなところを、今回は「これなんですか?」っていう絵に「私だったらこれをここに置くかな」っていうふうにやっていったのが、今までの秘めごとと今回の作品の違いかなと思います。僕が難解に見えてしまっている世界と、詩音さんがものすごく純粋に見ている世界が合体したときに、すべての曲が今までの秘めごとのコンセプト通り、日常で聴いても自分の生活に当てはまるようなものにちゃんとなったんですよね。それに救われました。