【インタビュー】おいしくるメロンパンの10年間の奇跡の歩み、そのすべてが繋がった新作『antique』をナカシマ(Vo・G)が語る

【インタビュー】おいしくるメロンパンの10年間の奇跡の歩み、そのすべてが繋がった新作『antique』をナカシマ(Vo・G)が語る

届かないところに思いを馳せる感覚が美しくて切ないと思いつつ、それが自分の中で終わっちゃうことにも絶対に意味があると思ってる

──そことも繋がる1曲目の“旧世界より”だけど、旧世界っていうワードは何を表しているの?

なんだろうな、生前の世界だったりももちろんするし。絶対的に隔てられている世界ですよね。昔はそれが小規模で私的で、生活感がある感覚だったと思うんです。それこそ“色水”とかでは、ただお別れするってことに対して切ないっていう、ほんとに個人的な感覚に近かったものが、もっと解釈を進めていくと、こういうことだったんだなっていう。だからお別れとかに対して自分が曲をたくさん書くのは、そういう隔たりみたいなものに対して、ポジティブにもネガティブにも表現したいなっていう感覚があるから。

──“色水”とか、その旧世界の感覚をわりと素朴に身近な感じで表現できたから、たくさんの人のノスタルジーを刺激して今でも愛されてるし。なんか子どもの頃とか思春期の頃って、そういう世界が内側に濃くあった感じがないですか?

ありましたね。その頃、流行ってたポップスだったりっていうのはあんまり聴かずにケルトだったりアイリッシュを聴いてたのもそういう、今、自分の周りにない風景だったり感覚を求めてたからで。それがそのまま自分の中に根づいて、その景色だったりが今こうやってアウトプットに変わってるってことだと思うんで。たぶんそういう隔たれた世界に憧れがあって、その自分が手に入らないであろうものをかたちにしてるって感じなんですかね。この“旧世界より”も届かないってことがわかっていながらも、そこに対して思いを馳せるっていう感覚が美しくて切ないと思いつつ、それが自分の中で終わっちゃうことにも絶対に意味があると思ってるという。


──残る2曲はどういう感じでできていったんですか。

“額縁の中で”のほうが、先に歌詞を書きましたね。結構、概念的な曲が多くなってるなと思ったんで。ひとりの視点から、生まれ変わりだったりとか隔たれたものに対しての感情だったりっていうのを表現してみたいなっていうのはありましたね。

──もう一回一人称的に表現したいと。

そうですね。これは楽しかったですねー。こういう他のバンドが絶対につくれないものができた時は、やっぱ素直に嬉しいですね。『cubism』とか『answer』みたいな開けていた時には書けなかったようなもの、『theory』だったり『hameln』みたいな感覚で書けたなとは思いますね。もう理解されることとか置いといて、自分の中にあるものをそのまま取り出してみようみたいな。未だにそれがちゃんとできるんだっていう安心感もありました。

──3曲目に“海馬の尻尾に小栴檀”が来るのも絶妙ですよね。

これは、これ以外の4曲が出揃って聴き味的に軽い感じのやつがやっぱ欲しいなって思ったんで、それでギターが跳ねる感じのリズムのところからつくり始めた感じですね。これは、忘れちゃうことみたいなことを結構ずっと書いてきたと思ってて、それをポジティブに表現したっていう感じですかね。わりとこのアルバムを通して暗い雰囲気があるんですけど、実は言ってることは明るくて、その明るさの部分が表層化した曲な気がしますね。

──なんでナカシマくんの中では、忘れるってことがこんなにポジティブなんだろう。“旧世界より”にも《忘れることだけを/生きる術にしてきた》ってあるけど、本当に忘れることだけを生きる術にしてきたよね(笑)。忘れることは、ずっと力だったという。

そうですね。忘れてもなくならないからっていう感覚はありますね。たぶん自分の中であったことっていう事実は、忘れたとて変わらないし。忘れちゃうってことが悲しいことだと思い続けてたんですけど、それが徐々に変わってきて、ここまで来れたかなと思ってるんで、それを歌にできたかなと思いますね。“海馬の尻尾に小栴檀”の最後に《愛し続けるために》《忘れよう》って言ってるのも、ずっと覚えてると心の中で腐っていく感覚があって。それを手放すことできれいな事実だけを残して、忘れて前に進んでいける感覚がある。そういう意味で忘れちゃってもいいやっていう諦め。それを肯定的に歌ってる感じです。

──ずっと忘れることを歌ってきたけど、今回は遂に忘れることを生きる術にしてきたって言えるようになったし、大切にするために、愛し続けるために忘れようって言えるとこまで来た。それが未来につながる最終回の感じな気がする。

確かにそうですね。

──“海馬の尻尾に小栴檀”っていうタイトルのモチーフはなんなの?

モチーフは特にないですね。なんかをパロったとかでもないし。ただなんか記憶っていうものがあって、それが時間が経つにつれて、大切に持ってたものがどんどん削げ落ちていってしまうみたいな感覚があって。小栴檀っていうのが、動物とか服とかにくっつく種の植物で。記憶っていうものをそういうものとして捉えて。海馬って、『馬』って字が入ってるじゃないですか。海馬は脳の器官なんですけど、海馬を馬として捉えて、その馬にひっつく種──大切に持ってたんだけど、歩いていくごとにどんどんその種が落ちていっちゃって。でもいつかその種も花が咲くから無意味なことではないし、忘れることはいいことだと。で、海馬に小栴檀だと、脳の器官をどうしても想像しちゃうんで、尻尾ってつけたら馬を想像できるかと思って。だから海馬を馬と見立てて尻尾にひっついてる小栴檀っていう絵が浮かぶかなと思ってこのタイトルにした感じです。

──このタイトル、天才だね!(笑) ナカシマくんは、会話における言葉はまったく信じていないけど、文学とかからも身につけた信じられる言葉もあって。そんな言葉を使いながらの”海馬の尻尾に小栴檀”っていうタイトルを生み出す能力は凄まじいな。

いやいや、とんでもないです。でも自分の中にあるものを純度高く出すっていうことが作品だとできるから。作品における言語っていうのには、やっぱり信頼を置いてるかもしれないですね、ある程度は。

【インタビュー】おいしくるメロンパンの10年間の奇跡の歩み、そのすべてが繋がった新作『antique』をナカシマ(Vo・G)が語る

“色水”みたいに誰にでもスッと入ってくるようなものもつくれればいいし、逆に“獣”みたいに自分の内側に向き合った作品も作りたい


──これまでミニアルバムをずっとつくってきて『phenomenon』入れるとだいたい50曲。“夕立と魚”がアルバムに入ってないから、正確には51曲だと思うんだけど。

確かに。

──約25曲つくって1クール終わって、約50曲つくったところで1期終わったっていう、几帳面だよね(笑)。

たまたまそうなってるだけなんですけどね。

──でも区切りを大事にしながら、ずっとミニアルバムも5曲ずつで来ているし。あとオチになる曲っていうのをすごい大切にしてると思う。今回は“渦巻く夏のフェルマータ”があったから結論がすごく明確になったし。オチが結構ナカシマくんの、作品への自己評価を決めてる気もするね。

ああ、確かにそうかもしれないですね。なんか曲っていうものがひとつだけで存在してる感覚があんまなくて。いろんな曲からの周辺情報があってその曲が成立してるって自分の中では思ってるんで。そういう意味では、その情報が行き着く先っていうのがあって、そこが点数につながるみたいな感覚はあるかもしれないですね。

──たぶん自分では『flask』がちょっと不完全燃焼みたいに言ってるよね。『flask』も曲はいいんだけど、5曲まとまった時のオチ感があのテーマではつくりきれなかった。同じような時期でも『theory』の時は“斜陽”でしっかりオチがついたみたいな。

確かに。

──今回の『antique』は、見事に51曲のオチもちゃんとついた素晴らしい作品だっていう感じがします。

そういう感覚はすごいありますね。だからこういう時、ちょっと迷いますよね。次どうやってまた進んでいこうかなみたいな。『hameln』が終わった時もそういう感覚があって。

──最初の想定をやりきったタイミングだったんだね。

そうですね。だからまた自分の中でのハードルも上がってるし。次の一歩、しっかりきれいに踏み出したいなみたいな。でも、やることはやっぱり変わらないのかなとは思いますけど。もっと音楽的に表現の幅は広げていきたいです。今までつくってきたものをどんどん拡張していくっていう考え方は変わらないですけど。

──もう核があるから、拡張の仕方が自由だよね。

そうですね。もっと普遍的なアプローチで“色水”みたいな、誰にでもスッと入ってくるようなものもつくれればいいなと思うし。逆に『theory』 の“獣”みたいな、さらに自分の内側に向き合った作品もつくりたいなって、どっちの思いもありますね。

──これまでと同じバンドの物語なんだけど、違うストーリーが始まろうとしてる気がします。

そうですね。そうなっていくと思います。

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ヘア&メイク=栗間夏美 スタイリング=入山浩章


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