【インタビュー】レトロリロンはここから始まる! 最新EP『アナザーダイバーシティ』で描いたポップスバンドとしてのアイデンティティ

【インタビュー】レトロリロンはここから始まる! 最新EP『アナザーダイバーシティ』で描いたポップスバンドとしてのアイデンティティ
次世代ポップシーンを切り拓く存在として俄然注目を集めるレトロリロン
最新EP『アナザーダイバーシティ』は、彼らのひとつの到達点である。

全員が同じ音大の在学中に出会い、それぞれの音楽性、その「個性のぶつかり合い」が独自のポップを生み出してきた。そのアンサンブルがこの最新作で見事に「調和」に至る。涼音はここまでの歩みこそが「本編」だと表現する。映画でも小説でも本編として描かれるのは、何かが形を成すまでの、あるいは何かの答えが出るまでの「物語」。とするならば、音楽性の相違や葛藤を乗り越えてポップスバンドとしての自信を得た現在のレトロリロンは、まさに「本編完結」の地に立つ。

奇しくも『アナザーダイバーシティ』は『インナーダイアログ』、『ロンリーパラドックス』と連なるEP 3部作の完結編という位置付けだ。この3作を通して、自己に向き合い、社会とどう関わっていくのか、そこで自分は何を表現するのかというテーマを表現した。それはそのままレトロリロンがバンドとしてのアイデンティティを獲得するまでの物語のようだ。

今作ではそのポップなサウンドの裏で、空疎に使われる「多様性」という言葉へのアンチテーゼが投げかけられる。そのテーマを涼音の書く歌詞のみならず、サウンドでも緻密に表現するのが今のレトロリロン。そこに至るまでの「本編」、そして今作に込めた想いをメンバー全員に語ってもらう。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=伊藤元気


「やりたくないなら辞めてもいいよ」って。別に無理に続けるものじゃないし、全員辞めるだろうなと思ってました(笑)(涼音)

──そもそも4人は音大在学中にバンドを結成したんですよね?

涼音(Vo・AG) 大学のゼミで演奏会があって、その打ち上げで永山(タイキ)に声をかけられたことがきっかけでした。彼はかなり酔っぱらっていたんですけど、そこで「一緒にバンドやりたい」みたいなことを言われて。僕は卒業まであと数ヶ月というタイミングで、進路について悩んでたんですよね。レコーディングエンジニアの勉強をしていたし裏方に行こうかとか。でもせっかく声をかけてもらったし、自分はシンガーソングライターしかやってこなかったけど、バンドをやってみてうまくいかなかったら音楽を諦めようと。で、後日改めて永山にその気持ちを伝えにいって。それなのに、彼はまったく僕を誘ったことを覚えていなかったんですよ(笑)。

──ひどい(笑)。でも永山さんは酩酊していながらも涼音さんに声をかけたということは、一緒にやりたいという思いは間違いなくあったんですよね?

永山タイキ(Dr) はい。ゼミで一緒にライブした時に後ろでドラムを叩いたんですけど、涼音の歌は純粋にかっこいいなって思っていたので。だから打ち上げの時のことは覚えていなかったんですけど、いちドラマーとして「もう全然やるよ」みたいな感じで。

涼音 まあそれで、バンドやるなら普通にエレキギターとか入れても面白くないと思ったので、まずキーボードを入れたいと思って。ゼミの演奏ではmiriも一緒に演ってたから、ちょうどいいし誘おうかみたいな。

miri(key) 最初は涼音のソロ活動のサポートプレイヤーとして誘われたんだと思っていたんです。だから軽く「オッケー」って言ったんですけど、まさか正式メンバーだったとは、という感じでした。

飯沼一暁(B) 僕はもともと涼音のことを知っていて、というか、涼音の音楽が好きで、ソロでのライブもほんとによく観に行っていたんです。で、ある日、大学の広い教室でこの3人が集まっているのを見かけて。これはきっと涼音がギターボーカルでキーボードをmiriさんが弾いて、タイキがドラムなんだろうなと。

涼音 授業中に突然隣の席に座ってきて「バンドやるらしいじゃん?」って。「俺ベース弾こうか?」って(笑)。

──(笑)。miriさんは自分は正式メンバーだったと気づいた以降も、このバンドは続けていこうと?

miri そうですね。でも、最初はみんな音楽の方向性もバラバラだし、アレンジ段階で「せーの」でやる時も、各々の引き出しをぶつけ合うだけみたいな感じだったんで、結成から1年くらい経った時に涼音が一度、みんなの意思を確認したんだよね。

涼音 そう。「やりたくないなら辞めてもいいよ」って。みんなそれぞれ、本当は違うことをやりたいけど──当時はコロナ禍だったのでやれることもないから、今とりあえずバンドをやってるだけなのかな?みたいに思ったりもしていて。

──そこはヒアリングしてみようと。

涼音 そうですね。別に無理に続けるものじゃないし、改めてこのバンドを続けていくのか、ちょっと考えてみてもらいたいと。それでもう全員辞めるだろうなと思ってました(笑)。

miri それで私も考えたんですよ。私はもともと劇伴作家になりたくて音大に入ったんですけど、でも、バンドっていろんな道につながる職業だなとも思って。それこそバンドが大きくなっていけば映画の主題歌や劇伴をやる可能性もあるし。涼音の書く曲もすごく好きだったので、そこに人生を懸けてみようと思って、続けることにしました。

──永山さんはその時どう考えていましたか?

永山 それまでの自分は大学でもジャズを専攻していたし、バンドのドラマーとして「歌ものポップス」をやるというより、ドラマー目線で音楽を見ていたというか。当時は卒業してからもバンドを続けるなんて全然考えてもいなかったですし。

涼音 自分から言ったくせに(笑)。

永山 そうなんですけど(笑)。卒業したらジャズを学びに海外に行ってみようかなとかも考えてたんですよ。でも涼音にそう問われた時には、レトロリロンでドラムを叩く楽しさも感じ始めていて。それまで音楽を聴く時にも歌詞については全然考えてこなかった人間なんですけど、涼音の書く曲で叩いている自分がすごく楽しくて。なので続けたいと思いました。

飯沼 僕はもう即答で「辞めないよ~」って言いました。

涼音 最初から完全にやりたい人だったからね。

飯沼 そうそう。「やだやだ、やるやる」って(笑)。

音楽だけじゃなくて、人間的にもこのバンドに対して懸ける想いだったり、見ている方向みたいなものがメンバー間で合ってきたと思えるようになったのはごく最近(miri)

涼音 僕はみんなが辞めたらまたひとりでやればいいかみたいな。だから意外とその時は冷めてましたね。このままじゃバンドとして機能しないなって自分の中では思っていたので。めちゃくちゃだったんですよ、本当に。

──どんなふうにめちゃくちゃだったんですか?

涼音 音楽的にめちゃくちゃでした。

──それはみんなの音楽性がバラバラだったという?

涼音 そうです。調和しようとしないというか。それぞれが自分を主張しようとしていて。しかも全員がまるで違った主張だから、もうまとめるのも面倒くさいなって思ってしまって。

──個性のぶつかり合いを面白がるところまで行けていなかったと。

涼音 そうですね。楽しくなかった。結局曲を書いてくるのは僕で、そこに他者の意図が介在していくこと自体が僕にとっては初めてだったので、これはどういうふうにすればうまくまとまるんだろう、みたいなことをずっと考えてました。かといって全員の良さを潰してしまうと、じゃあ打ち込みでいいかってことになっちゃうし。どういう塩梅でみんなの良さを残して、いらないところを削いでいくかということだけを考えてたので「うわ、バンド面倒くさ」ってなっちゃったんですよね。

──その状況を打破する突破口というか、うまく転がっていくようになるきっかけというのは何かあったんですか?

涼音 みんなが「やるよ」と言ってくれたんで、それならもう、言葉はきついですけど「従ってくれよ」と。

飯沼 そこから涼音はストレートになんでも言ってくれるようになったんですよ。やっぱめちゃめちゃ仲良しでバンドを組んでるわけじゃないから、まずそこに距離感があったんですよね。そこからは直接話す機会も増えたよね。

涼音 そうだね。全員やる気だというなら遠慮なく真剣にやろうと思って、1回それぞれのバックグラウンドを僕はかなり否定したと思います。全員がちゃんとポップスに向くようにと——いや、なんか、バンドをやるうえで、別にこの3人には好かれなくてもいいし、全員がちゃんと同じ音楽を意識して作っていかないと長続きしないと思ったので。かなりメタメタに言ったと思います。「それは違う」とか「それは合ってない」とか「歌詞をもっと聞け」とか。人に何かを届ける以前に自分が楽しければいいっていうところで止まっちゃってたので、人にしっかり届けるために必要なことをずっと伝え続けていきました。

──そこからは“深夜6時”がロングヒットとなったり、バンドはいい方向に転がり始めていったんですね。

涼音 でもレトロリロンがちゃんと「バンドになった」と思えたのって、今回の『アナザーダイバーシティ』くらいからじゃないかな。

miri 確かに。音楽だけじゃなくて、人間的にもこのバンドに対して懸ける想いだったり、見ている方向みたいなものがメンバー間で合ってきたと思えるようになったのはごく最近かも。


涼音 今作では初めてバンドをそのまま詰め込んで出せたという感覚があって、これで自分たち的にもひと区切りという感覚があります。僕的にはこのEP3部作が完結したことでようやくレトロリロンというバンドが完成したというか。振り返ってみると自分たちの成長がすごく色濃く出ている作品だし、一旦ここで第1部にピリオドを打ち、さらにその先へという感じですね。だから1曲目は“ワンタイムエピローグ”なんです。僕的にはここまでが「本編」だったんですよね。人生も同じようなもので、高校や大学を卒業したりして、そこで1個区切りつけて社会に出ていくまでが、僕は人生の本編だと思っています。ここからあとの50年ぐらいはエピローグなんじゃないかと。

──エピローグこそが豊かなものになると。

涼音 そうですね。人生の主題かなとは思っています。

──その“ワンタイムエピローグ”はライブ感の強い曲なんだけれど、ライブでみんなと一緒に盛り上がるイメージもありながら、そこで孤独を感じていたり、人とは違う感じ方をしている人にも刺さる曲だなと思いました。

涼音 この曲、クラップから始まるけれど、1行目の歌詞は《耳を塞いでも鳴り止まない》っていう。クラップを楽しいと感じる人もいればうるさいと思う人もいる。それが共存していてほしいっていうのが今回のEPのタイトルにもかかっていて。ライブでみんなでクラップしてコーラスしなきゃいけないっていう時点で、そこにダイバーシティはなくなるので。

次のページそもそも全員違うじゃないですか。名前も違ければ顔も違う。そんな中でわざわざ「多様性」という言葉を使うのは、それを認めたくない人たちがいるからだと思うんです(涼音)
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