すごく冷静に言ってしまえば、変わるべき時期にふさわしいアルバムが届けられた。母ケイト・マッギャリグルの死、レナード・コーエンの娘が代理母となった娘ヴィヴァの誕生といったプライヴェート面はもちろんだが、創作面でもオペラ『プリマドンナ』のパフォーマンスなど意欲的な挑戦が続いた。デビュー以来、一瞬たりとも歩みを止めたことはなかった人だが、大きな曲がり角を体験し今作では周囲を見回し、深い深呼吸をするような感触がある。
ショーン・レノンから紹介されたマーク・ロンソンをプロデューサーに作られたアルバムは、聴く前から「自身、もっともポップなアルバム」「ダンサブルになる」といった発言が聞こえてきていたが、確かに曲の構造やテーマを見ればポップでダンサブルなものと言っていいし、そういう意味ではもっとも親しみやすく、ある種の軽みを持ったアルバムで、美しい誰にも好かれるメロディも随所に散りばめられている(“ソング・オブ・ユー”は絶品)。こういう世界も自分の中にはあるんだよ、と言われているようであるし、濃密な世界をすぐに連想する人間にとってはとても新鮮だ。(大鷹俊一)
迷い無しの美曲群
ルーファス・ウェインライト『アウト・オブ・ザ・ゲーム』
2012年04月25日発売
2012年04月25日発売
ALBUM