宿命のポップが鳴った

ミーカ『ザ・ボーイ・フー・ニュー・トゥー・マッチ』
2009年09月16日発売
ミーカ ザ・ボーイ・フー・ニュー・トゥー・マッチ
前作がとりあえずちゃっちゃと作ったプロトタイプに思えるほど、凄みすら感じる完全無欠のポップ・ミュージックが鳴っている。完璧主義者にして天才であるMIKAは今、自身の理想に極めてパーフェクトな地点まで辿り着けた実感を得ているんじゃないだろうか。ポップ・ミュージックを鳴らす宿命を背負って生まれてきた男が、それを完璧にやってのけている。しかし、本作が本当に凄い理由は、彼のその宿命がいかに過酷で悲劇的なものであるかが白日の下に晒されていることだ。

「僕らの未来は希望に満ちている」(“ウィー・アー・ゴールデン”)という宣言を皮切りに、MIKAは自身のトラウマティックな少年時代を復讐のように昇華・普遍化していく。しかし、それらは輝かしい未来予想図ではなく、予め失われた未来であることを彼も私達も知っている。本作から強く感じるのはそんな、ポップ・ミュージックを介した彼と私達の共犯関係である。本作中でも特に感動的なナンバー、「君は僕にとってかけがえのない人/でも君が知ることはないだろう」と歌われる“アイ・シー・ユー”のように、未来は最初から存在しないのだということを、彼も私達も知ってしまっているのだ。前作『ライフ・イン・カートゥーン・モーション』が文字通り現実をカートゥーン=ファンタジーの中に埋没させて逃避する機能を持っていたとしたら、本作はなぜ彼や私達がファンタジーを必要とするのか、その哀しみの理由を描ききっている。MIKAのポップ・ソングは、遂にここまで来てしまった。(粉川しの)
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