本当の「魔術師」はここにいる

マーズ・ヴォルタ『八面体』
マーズ・ヴォルタ 八面体
鼓膜を裂かんばかりのフルテンの重低音や、白目を剥くほど常軌を逸した狂気や、奇天烈の限りを尽くしたシンセ/サンプリング音……そういった要素の中からカオスを描き出すミュージシャンは決して少なくないが、オマーのように純粋に音階とフレーズの力だけでカオスを描ける人はそういない。ということを改めて感じさせるアルバムだ。錯乱したツェッペリンのようなM5“コトパクシ”のように、トリッキーな変拍子やアグレッシブな楽曲展開によって2度と戻れない森の奥深くへと引きずり込まれる……という従来のマーズ・ヴォルタ的不穏さを感じさせる曲もあるが、今作のポイントはむしろ、1つ1つの音があたかも魔術のように有機的に重なり合い繋がり合い、聴く者の固定概念に揺さぶりをかけるように脳裏に浸透し作用してくる麻薬性だ。たとえば、アルペジオの余韻が不穏にベンド・アップされてキング・クリムゾン“リザード”のような静謐な妖気を放つM1“シンス・ウィヴ・ビーン・ロング”。たとえばメロトロン風の鍵盤とオマーのスライド・ギターがイエスの“スーン”のような幻想的な音楽空間を作り出すM4“ウィズ・トワイライト・アズ・マイ・ガイド”……と旧来型プログレの物差しばかりあてはめて恐縮だが、それほど今作での彼らは、「ロック・バンドが起こすマジック」としてではなく「人の心に拭い難い影を落とす呪術としての音楽」を実現していることが一聴すればよくわかる。収録時間限界まで音を詰め込んでいた前作までに比べれば、全8曲・50分弱と格段にコンパクトだが、そこから生まれるイメージは遥かに壮大で宇宙的だ。(高橋智樹)
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