2019年4月に、処女作であるボーカロイド・v flowerの“アルカホリック・ランデヴー”を発表してから2年半。くじらは今や、
yamaや
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SixTONESらの楽曲を手掛け、シーンの最前線をひた走るソングライター/プロデューサーとなった。これまでにも自身の歌唱によるボカロ曲のセルフカバーはあったが、本作はくじら歌唱による初のオリジナル楽曲である。YouTubeでは、ティザー風動画を経てのMV公開で大いに盛り上がったが、フィジカルリリースに向けて『悪者』の物語は際限なく膨らんでゆくことになる。くじら自身が歌う“悪者”と気鋭の歌い手を迎えた“悪者 feat. 相沢”、そしてCDと同梱のカツセマサヒコによる小説は、思いを重ねたいと願いながら何度でもすれ違ってしまう、そんな無数の人々を射抜くだろう。青春という共犯関係を生きる人の数だけ、『悪者』は増殖すると言ってもいい。同じ時間を共有しているようでもキー(調)が異なる音楽のように、一人ひとりは決定的に違っている。ただ、確かに響き合ったという共犯の手応えを残すばかりだ。これがくじらの作家性である。(小池宏和)
『ROCKIN'ON JAPAN』11月号より