ダーティー・プロジェクターズ(DP)の新作は、4曲収録の5枚のEPを連続リリースするというもので、これはその5枚を1枚のCDにまとめたもの。最初の4枚はそれぞれ違うメンバーがリード・ボーカルをとり、最後の5枚目は全員で歌っている。曲はすべてデイヴ・ロングストレスが書き、歌詞はメンバー全員が共同で書いている。なので各人のソロを寄せ集めたようなものではなく、デイヴの指揮のもと、コンセプチュアルに構成された作品という印象だ。
サウンド面も、5枚それぞれが異なる。マイア・フリードマンが歌う1枚目『Windows Open』は、フォーキーなアコースティック路線で、それもDPらしいひねりを入れたものというより、まるでフェアポート・コンヴェンションみたいなトラッド・フォークさながらのストレートな歌ものになっている。2枚目の『Flight Tower』はフェリシア・ダグラスがボーカルを担当、これはエレクトロニック中心のモダンなサウンドだが、アコースティックも適宜使われ、シンプルで隙間の多いアレンジと、やはりメロディアスでポップな歌メロと巧みなハーモニーが印象に残る。3枚目の『Super João』はデイヴがボーカル。タイトル通り、昨年亡くなったボサ・ノバの神話的巨匠ジョアン・ジルベルトに捧げたボサ・ノバ集で、やはりデイヴの弾くアコースティック・ギターの響きが耳に残る、シンプルだが複雑な陰影と奥行きを持った歌もの集。4枚目の『Earth Crisis』は、クリスティン・スリップがボーカル。ストリングスと木管のクラシカルなアンサンブルをDP流に歪ませたアバンギャルド集。そして5枚目の『Ring Road』は、王道DPサウンドとも言えるミニマルでひねったアバン・ポップが聴ける。
DPのさまざまな側面をクローズアップした作品集だが、全体を通して印象に残るのは、シンプルで隙間の多いアコースティックな響きを重視したサウンドと、なによりポップでメロディアスなボーカルとハーモニーの美しさで、いわばDP流の歌もの集といった趣が強く、尖ったアート・ロック・バンドとしての彼らは後景化している。コロナ禍でバンド・サウンドを強調したようなものは作りにくかったという事情もあるだろうが、むしろ今のこの時代に人びとの心に届かせるため、シンプルで美しく力強いポップ・ソングこそが有効だという判断があったのではないか。中期ビートルズやビーチ・ボーイズに通じるような、ポップだが決して安っぽくなく、どこかアバンギャルドで奇妙な香りも残した秀逸な作品集。(小野島大)
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