フリート・フォクシーズのギタリスト、スカイラー・シェルセット。スカイラー名義でのアルバムはこれが4作目。ちなみに1作目のタイトルは『Noh(=能)』。過去には三島由紀夫や大友克洋の名をタイトルにした曲もある。また「Japanese Guy」なる別名義での作品もある。つまり彼は日本文化に大きな影響を受けていて、本作も例外ではなく、荒井由実を始め、YMOの各メンバー、三島由紀夫、谷崎潤一郎、吉本ばなな、はては『新世紀エヴァンゲリオン』などからインスパイアされた曲もある。また彼が日本を訪れた際に買った楽器やおもちゃ、自らフィールド・レコーディングした音を使った曲もある。
ユーミンに関しては彼女の75年作『COBALT HOUR』にインスパイアされたらしい。言われてみれば確かに、スカイラー流のシューゲイザー〜ドリーム・ポップに、細野晴臣率いるティン・パン・アレーがバックを務めていた荒井時代のユーミンの、ユーロピアン・ポップスとアメリカン・ポップスのエッセンスが混じり合ったようなAORが融合して、スカイラーの作品中際だってポップでファンタジックなサウンドになっている。コード進行やメロディの組み立て方は坂本龍一の影響も大きいと感じた。相当にダークでエクスペリメンタルだった初期作品と比べるとエモーショナルかつセンチメンタルで、それは本作制作期間中の彼の、決して良好とは言えなかったメンタルの状態を反映しているようだ。
白昼夢の中に漂うような、まどろみと覚醒の間をゆっくりと往還するような浮遊するサウンドは瞑想的であり、そして内省的かつ思索的で、いつまでも浸っていたいと思わせる。コロナ禍での外出自粛の引きこもり生活のお供に最適の、実に魅力的な作品。 (小野島大)
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