改めて絶好調だね、と声をかけたくなる『トラディショナル・テクニークス』と題された元ペイヴメント、スティーヴン・マルクマスの新作だ。長年の相棒グループ、ジックスとの『スパークル・ハード』(18年)、そして18年ぶりとなったソロ名義での『グルーヴ・ディナイド』(19年)に続くアルバムで、トリロジーとしての完結編でもある。
『スパークル・ハード』のレコーディングをしているときにスタジオにある世界各地の楽器類をいじっていて構想がまとまったそうで、曲もすぐに出来たのだという。ギリシアの楽器ブズーキを連想させる音色や、中東、バルカン半島の楽器類なども使われており、彼の作品としては異質で、新鮮に響いてくる。とはいえ全体的にはフォーク・タッチの楽曲と歌が中心で、そこに国境を越えた音色が重なり、どこかサイケデリックな感じを受ける。インクレディブル・ストリング・バンドなんて名前を思い出すが、もちろん60年代のサイケ・フォークとは違い、グランジ、ロウ・ファイ、オルタナを最前線で体験してきた人ならではの世界観やビート感が貫かれてスリリングだ。
先行シングルだった“シーアン・マン”や“ワット・カインド・オブ・パーソン”、“ブレインウォッシュド”でのドラッギーな感覚が魅力の大きな柱であり、同時にただただ美しい曲との共存が心地よく、アルバムとしての奥行きを深めている。基本的にはスティーヴンの12弦ギターにザ・ディセンバリスツのクリス・ファンク(G/Key)、ボニー・“プリンス”・ビリーのサポートなどもやっているマット・スウィーニー(G)等がバッキングで参加して、音数の少ない世界ながら叙情味豊かなものとしている。この夏にはスペイン、ポルトガルのフェス限定ペイヴメント再結成があるが、日本に来てくれないかな。(大鷹俊一)
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