10年ぶりの帰還。そこで、かくも長き不在を埋めるために何をすべきか。ラムシュタインが出した答えは、ある種のリセットだったのではないだろうか。
本作にはまず、表題が冠されていない。セルフ・タイトル作ではなく、あくまで無題なのだ。そこには、この作品の持つ意味を各々の聴き手に委ねようという意図が感じられる。シンプルきわまりないアートワークについても、それは同様だ。
機能的に配置された収録曲たちは、例によってシンプルかつ暗示的な言葉で命名されているが、まず幕開けを飾る楽曲が、彼らの出自について改めて根源的なところから説明するかのように〝ドイチュラント〞と名付けられていることに意味深長さを感じずにいられない。旧東独出身の、ドイツ語で歌うバンド。彼らはどんなバンドなのか、と尋ねられた時に誰もが口にするはずの事実。それが、改めてこの1曲目で突きつけられるのだ。
その瞬間、この10年間を焦がれるような想いで過ごしてきた人たちは彼らの揺るぎなさ、良い意味での相変わらずさを実感させられ、逆に予備知識のない人たちは無条件に基本情報を植え付けられることになる。なんて巧妙なのだろう。しかも実際、聴き進めていきながら感じさせられるのは、本作が実にわかりやすくラムシュタインらしさというものを伝えてくれる1枚だ、ということに他ならない。
ミステリアスで、スプーキーで、挑発的で、不気味な人懐こさを持ったラムシュタイン以外の何物でもない今作は、デビュー作のようでもあり、どこかベスト盤のようでもある。要するにここが、彼らにとっての新たな原点ということなのだろうか。ならば、ここを起点としながら彼らはどこに進んでいくつもりなのか? それを考え始めると、夜も眠れない。 (増田勇一)
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