やっぱり兄弟喧嘩でレコーディングが遅れているなど、彼らにふさわしい噂が飛び交う中、無事に届いた約20年ぶりの新譜。派手なノイズでも飛び出すかと思いきや穏やかこの上ないメロディラインを落ち着いた声やコーラスが描き出す。〈ダメージと喜び〉とはグループの歴史そのもので、それを客観視したようなナンバーが揃い、いま新作を作ろうとした気持ちが激しく説得力を持つ。
決して『マンキ』(98年)の延長線ではなく、棘は残しつつ、初期から持っていたロマンチシズムやロックへのオマージュをこの時代の中に投影して見せている。共同プロデューサーのユースが、いまだに緊張感も伝わってくる兄弟たちを巧くまとめ、時代と絡ませるのはさすがだし、グループの本質がみごとにこの時代に着地した。“オールウェイズ・サッド”などに女性シンガー、ベルナデット・デニングがヴォーカルで加わり驚かされるが、アルバム全体の流れでは自然。後半ほど懐かしいテイストになっているあたりはよく考えられ、“ゲット・オン・ホーム”でノイジーなギターが暴れると嬉しくなってしまうのはジザメリ原体験が抜けないからか(笑)。(大鷹俊一)
超えられた20年の時空
ジーザス&メリー・チェイン『ダメージ・アンド・ジョイ』
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