ブームを抜け出せ
トム・オデール『ロング・クラウド』
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ALBUM
ここ数年、まさに群雄割拠と呼ぶに相応しい男性シンガー・ソングライター勢のブームと競合が続いているUKシーンだが、13年にデビュー・アルバム『ロング・ウェイ・ダウン』で全英1位を獲得したこのトム・オデールも、エド・シーランらと共に第一陣を形成したSSWのひとり。そんな彼がさらに加熱したブームの渦中に3年ぶりに帰還するに際して、恐らくとことん戦略的に作ったのだろうと予想できるのが本セカンドだ。ここで彼が目指しているのは、シンプル&リアルだった前作の対極を行く、大胆に「盛る」方向だ。シンセやストリングス、ゴスペルやソウルの昂揚を全編に配し、オーヴァー・プロデュースになるギリ一歩手前で厳密な采配が冴え渡る一枚で、共作者、ブレインも前作の倍近くに増えている。ラナ・デル・レイとの仕事で知られるリック・ノウェルズを迎えて作った劇的なダーク・エレクトロ“マグネタイズド”を筆頭に、その新たな人選も確実に成果を挙げている。一瞬もロウキーな隙がなく、うっすらと緊張感すら漂う本作は、よりシビアになりつつある16年の英SSWブームの状況の写し鏡のような一枚だ。(粉川しの)