新作『ノー・ジオグラフィー』が素晴らしいロッキン・ブレイクビーツ回帰作となったことで、俄然楽しみになっていたケミカル・ブラザーズ。それゆえ、2011年以来となる今回のフジ出演では、毎度アップデートされるライブサウンドは当然としても、吹っ切れたブレイクビーツによる抑揚の構築にオーディエンスが沸きまくっていた。今やオールドスクールとも言えるケミカルズのお家芸が、たとえ旧式だろうとも完璧にチューンナップされ磨き抜かれた愛車として、堂々と誇り高くドライブしていたのである。
EDM隆盛の時代は、新たなポップソングを生むサウンドの土壌として現在に至っているが、ピュアなダンスの陶酔感を誘うレイヴ・カルチャー直系のケミカルズのサウンドは、今こそ鳴らされるべきカウンターとして機能していた。『ノー・ジオグラフィー』は、ただのノスタルジーではなく逆襲の作品だったのである。肉体に働きかけダンサーズ・ハイを目指す強力なグルーヴ感と抑揚の物語性が、シンガロングのためにデザインされたEDMを越え、世界の共通言語であるダンスを取り戻していた。「フジのケミカルズ」という鉄壁の安定感に、時代の中で渇望されたダンスサウンドが上乗せされる、見事なヘッドライナー出演であった。
突然のソロ新作『アニマ』も届けられたタイミングの、トム・ヨーク・トゥモローズ・モダン・ボクシーズ名義によるステージ。ライダース・ジャケット姿でナイジェル・ゴドリッチらと共に登場したトムは、自身のルーツにあるエレクトロニカやIDMをフィジカルなサウンドの中に取り込み、鍵盤やベース、ハンドベル、ギターといったツールを自由自在に使い分けてステージを構築してゆく。歌いながら練り歩き、一面のハンドウェーブを誘うご機嫌な一幕まであった。映像演出含め、完璧にオリジナルな美意識と躍動感に貫かれたステージだ。「コンバンハー!!」と挨拶を投げかけてからの“Black Swan”や“Amok”といった過去作、新作からの“Traffic”や“Dawn Chorus”、ダブルアンコールの“Suspirium”まで、充実したソロ活動のいびつな美を総覧してみせる内容であった。
この初日は、ソロ女性アーティストたちの大活躍についても触れないわけにはいかない。驚異的なダンスとポリティカルなメッセージ、目まぐるしい衣装チェンジを見せながら、一挙手一投足がキュートかつチャーミングなジャネール・モネイには絶賛の声が多く寄せられている(パンツのヒダのデザインを利用して、あっけらかんと女性器を表現する“Pynk”にはぶっ飛んだ)。個人的にも、この日のベスト・アクトだ。
正しくポストEDM時代のシンガーソングライターとして、迫力のパフォーマンスを見せたアン・マリー。作曲センスと美声、オルタナロックのサウンド、机の上に寝そべりながらの前衛的なダンスも磨きがかかったミツキ。極上バンドの演奏の中で抑制の効いたネオソウルを披露したサブリナ・クラウディオ。朝一番のフィールド・オブ・ヘヴンで大勢のオーディエンスを集め「運命に試されている気がする」と告げていた中村佳穂。それぞれに、先鋭的な音楽だけでなく人間性の魅力をたっぷりと感じさせるパフォーマンスだった。
そしてELLEGARDENによる、11年ぶりのグリーン・ステージである。個人的には活動再開後初めてのライブだが、ギラッギラのサウンドで“Fire Cracker”から始まり、すこぶる楽しそうな4人は心なしか「エルレの顔」をしているように見える。“Missing”の最後には歌をオーディエンスに預け、痛快な“Pizza Man”、スッキリしない天候にもぴったりな“風の日”と、エモーショナルな名曲がガンガン畳み掛けられる。重厚な“Middle Of Nowhere”から“金星”の流れは、最もグッとさせられたポイントだ。
細美武士(Vo・G)は「この会場に、出演者だけが渡れる小さな橋があるんだよ。俺は11年前、いつかまた自分のバンドでこの橋を渡るんだって決めて、毎日思い続けてきたから、夢が叶って嬉しいよ。でもまあ、せっかくまた時計の針が動き出したんだから、ここからは子供の時には思いも寄らなかった夢を、追いかけていきましょう」と告げていた。決してあの頃のままではない、それぞれの道を歩んで経験を積み「ELLEGARDENを再び動かす」ために結集した4人の音。「俺たちのバンド、日本で一番シンガロングがでかかった記憶があるんだよね」と告げられてからの、“Make A Wish”の大合唱は美しかった。(小池宏和)
フジロック2日目、3日目のレポートは以下。