『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』をリリース! その「語り」の凄みを存分に活かしたブロードウェイ公演の画期性を探る

『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』をリリース! その「語り」の凄みを存分に活かしたブロードウェイ公演の画期性を探る - pic by Rob DeMartinpic by Rob DeMartin

12月14日にリリースされたブルース・スプリングスティーンの『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』。既に報じられているとおり、今日15日に楽日を迎えるニューヨークのブロードウェイで上演されているブルースのロングラン公演のライブ・アルバムだ。

公演は、ブルースがソロとしてギターやピアノだけで自分の曲の弾き語りを披露していくものになっているが、各曲の演奏前に彼自身による解説があり、その後演奏に入っていくという構成になっている。解説部分は自伝『ボーン・トゥ・ラン』の内容を土台にしたものだが、楽曲の途中でいきなり語りに戻ってしまうような展開もあり、まさに「弾き語り」としかいいようのないパフォーマンスだ。

公演はほぼ1年にわたって上演が続くというヒット興行となったわけだが、なぜ、このソロ独演会がそこまで受けたのか。それは久しく前面に押し出されることのなかったブルースの自分語りが、ブルースの解説と弾き語りによって堪能できたからだと今回の音源を聴いた限りでは思う。

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『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』をリリース! その「語り」の凄みを存分に活かしたブロードウェイ公演の画期性を探る - pic by Danny Clinchpic by Danny Clinch

今も昔も、ブルースはロックンロール・ストーリーテラーとしてその人気を誇っている。ブルースの今回のブロードウェイ公演の成功について、イギリスのロック・ストーリーテラーの第一人者といってもいいザ・キンクスのレイ・デイヴィスは、それほどストーリーテリングは必要とされているものなのだと『ロッキング・オン』とのインタビュー時にも語っていた。ただ、ブルースの場合、その物語話法は何度か大きな変節を潜っている。

初期の作品群においてブルースはどこまでも自分に近いか重なり合うキャラクターを設定して歌詞を書いていて、現実の自分とは違っていても心情的にはどこまでも共振する人物の物語をロックンロールとして綴っていた。基本的に『闇に吠える街』までのブルースの作品世界はそういうものだ。

『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』をリリース! その「語り」の凄みを存分に活かしたブロードウェイ公演の画期性を探る - pic by Danny Clinchpic by Danny Clinch

しかしその後、『ザ・リバー』『ネブラスカ』『ボーン・イン・ザ・USA』でそのアプローチは大きな変化を迎えていく。というのは曲で描かれていくキャラクターが必ずしもブルース個人とは重ならなくなってくるからだ。そして『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード』以降、ブルースは楽曲の作品世界を自身のパーソナリティから完全に切り離すことに成功していくが、もちろん、その後も自身の記憶や思いを曲に託すことも多く、今回取り上げられている曲はそうした個人的な内容を含んだものが多いのが聴いていてとても印象的だ。

特に第一部と第二部とでは楽曲数に開きがあるが、要するに第一部は特に初期の楽曲が集中していて、蘇ってくるブルース自身の記憶も溢れてくるので解説における回想や語りも濃くなるし、本人も熱が入ってしまい、1曲あたりのパフォーマンスの時間が長くなってしまっていて、そこが面白いのだ。

また、1987年にレコーディングされたが98年の未発表音源集『トラックス』に収録された"The Wish"もブルースの子供時代の心象風景を綴る曲として前半で紹介されていて、法律事務所の事務員をしていた母親と職場から一緒に自宅へ帰るその風景や幼い日々の記憶を再現するブルースの話術もさすがだ。

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また、ブルースというと"Thunder Road"や"Born to Run"などの曲のせいでとかく車を乗り回しているイメージが強いが、Eストリート・バンドの前身バンドともいえるスティール・ミル時代にマネージャーとアメリカ横断を試みて、ブルースはまだ免許を持っていなかっのにこの旅の途上で(無免許で)運転を無理矢理教え込まれたなどいったエピソードも面白い。そして、その旅の経験の話を明かすことで、続く"Promised Land"のパフォーマンスについての絶妙な解説ともなっているのだ。

後半ではアメリカの現実を生きるどこかの誰か、というキャラクター設定が出来上がってからの楽曲が多く取り上げられているが、自身の青春のほとばしりを歌い込んだ初期の"10th Avenue Freeze-Out"のほか、その後の自身の葛藤や心境などを託した楽曲もわかりやすく紹介されているところが嬉しい。ブルース自身の物語の輪郭がここまで明確に浮き上がるセットや演奏はこれまでなかったように思うし、そこがこの公演の画期的なところだったのだ。(高見展)

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『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』の詳細は以下。


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