クリス・コーネルの死から1年余り、初のベスト盤『Chris Cornell』がリリース。07年取材時のクリスの言葉を今噛みしめる

クリス・コーネルの死から1年余り、初のベスト盤『Chris Cornell』がリリース。07年取材時のクリスの言葉を今噛みしめる

2017年5月18日深夜過ぎ、クリス・コーネルはミシガン州デトロイトのホテルの客室で遺体となって発見された。死因は「首吊りによる自殺」と報じられたが、クリスはバスルームの床で発見される数時間前に、サウンドガーデンのショウを行なっていた。彼はその日、会場であるフォックスシアターの写真を添えて「#Detroit遂にロックシティに戻った!!!!@soundgarden #nomorebullshit」とツイート。特に変わった様子は見られなかった。

クリスの死から18ケ月が経過した11月16日、彼のキャリアの集大成となる初のベスト盤『Chris Cornell』(輸入盤/デジタル・ダウンロードのみ)が発売された。同日、来年1月16日にロサンゼルスで行なわれるトリビュート・コンサート、『I Am The Highway: A Tribute to Chris Cornell』のチケットも発売が開始された。メタリカフー・ファイターズ、そしてサウンドガーデン、オーディオスレイヴ、テンプル・オブ・ザ・ドッグのメンバーらが集う奇跡的ラインナップで、アリーナ席のチケットは約10万〜90万円という破格の値段で転売されている。

ショウの収益金は、クリスが妻と創設したクリス&ヴィッキー・コーネル基金と某医療リサーチ基金に寄付されることになっていて、コンサートのチケット購入者はもれなく、アルバム『Chris Cornell』がもらえる。ビジネス目的の企画に感じられなくもないが、今一度クリスの偉大さに向き合い再評価をする機会という意味において、サウンドガーデン、オーディオスレイヴ、テンプル・オブ・ザ・ドッグ、ソロとカバー曲、そして“When Bad Does Good”という未発表曲までを盛り込んだ計17曲のアルバム『Chris Cornell』は、あまりにも貴重である。

2007年、彼のセカンド・ソロ作『キャリー・オン』の発表前に『ロッキング・オン』の取材をした。クリスは鎮痛薬と飲酒の依存を乗り越えてクリーンになったと語ってくれた。
「大量に飲んだり煙草を吸ったりしていた時は、こんなライフスタイルをいつまで続けられるだろうと思った事もあったけど、それさえやらなければ、簡単な事だったよ。今はかなり歳になるまで続けられると思う」
それ以降、彼はずっとクリーンでい続けた。

グランジ/ハード・ロック出身であるためにマイケル・ジャクソン並みのスターになることはなかったが、私の中でクリス・コーネルは、歴史上トップ5に入るシンガーだ。ロックだけでなくソウル、ブルーズ、ゴスペルまでを鮮やかにリアルに歌いこなし、自らの声に何オクターブも上のバックボーカルを重ねられる彼の驚異的な歌声は、右に並ぶ者などいなかった。

ソングライターとしても、彼のバンドは彼がいてこそ成り立っていたし、“ユー・ノウ・マイ・ネーム”のように映画の主題歌もヒットさせ、ジョニー・キャッシュに曲を提供するほど一流で、多作であった。インタビューでは鋭い頭と独特のユーモアのセンスを使って場を和ませられる人で、ステージ上では強烈に人を惹き付けるカリスマ性とスター性を持ち、大衆のリーダーになれる人だった。

『Chris Cornell』のデラックス盤(4枚組で計64曲)には“イマジン”のカバーも収録されているが、父親となってからのクリスは、ロック界のジョン・レノンと呼びたくなるほど慈善活動にも情熱を注いでおり、ハリケーン・カトリーナの被害者に捧げた“ワイド・アウェイク”や生前最後のシングル曲となった映画『ザ・プロミス』の主題歌“The Promise”など、平和な世界を請う社会的な曲も書いていた。

クリス・コーネルは偉大なロックスターである以上に、世界を変えられるアーティストだった。「悪い奴が善行をする時もあるんだ」と歌う『Chris Cornell』のシングル曲“When Bad Does Good”が、そんなクリスの遺志を伝える曲として多くの人々に届くことを願っている。(鈴木美穂)

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