アウル・シティー、ジャパン・ツアーの東京公演。気高くイノセントなポップ・ミュージックの真髄を観た!
2018.11.08 13:50
新作『シネマティック』を携えた、アウル・シティーの最新ツアー。11月6日の六本木EX THEATERは東名阪で3公演を繰り広げる日本公演の初日で、今後は韓国や中国各地でのスケジュールが控えている。日中に「今夜は星を連れて行くよ、トーキョー」と本人がツイートしていたとおり、背景いっぱいに星空のようなLEDの演出が配された夢見心地なステージである。
ギタリストとキーボード奏者のサポート・メンバーが一人ずつ加わってはいるものの、ライブの序盤と終盤では巧みに複数の楽器とルーパーを駆使して楽曲を組み上げてゆくアダム・ヤングの姿が見られ、DTMをバックボーンにしたワンマン・バンド=アウル・シティーの原点を感じさせるパフォーマンスになっている。新作『シネマティック』は、端的に言えば「アダム・ヤングを10倍好きになるアルバム」だ。世界の片隅の地下室で練り上げられたポップ・サウンドがヒット・チャートを席巻する、そんなアウル・シティーの足跡を振り返り、物語として丹念に紡いだ作品だった。
前作『モバイル・オーケストラ』のシーズンを終えると、アダムはポップ・スターたるアウル・シティーの活動を休止させ、本人名義で膨大なインストゥルメンタル作品を制作・発表してきた。一方で自主リリースの環境を整え、アウル・シティーとしての3年ぶりの新作『Cinematic』は届けられることになる。イノセントな表現衝動を保ち、より自由なスタンスで世界中の人々とそれを共有すること。現代型ポップ・アクトのロールモデルにも成りうる活動基盤を、彼は作り上げたわけだ。
個人的に新作の中で最も好きな“Be Brave”でオーディエンスの感受性の扉をこじ開けておいて、“Fireflies”の大合唱へと導く一幕は本当に素晴らしかった。ロックなアタック感を受け止めさせるパフォーマンスの最中でも、“Fiji Water”や“Not All Heroes Were Capes”、“Cinematic”といった新作曲は、ひときわ大切そうにプレイされ、歌われていたように思える。現実と地続きの物語をファンタジーへと、そしてしなやかなメッセージへと仕立て上げる、今のアウル・シティーだからこそ成立するライブ体験であった。(小池宏和)