ホントにこの男の化け物スタミナには呆れる。ブルース・スプリングスティーン! この7月に未発表中心の7枚組BOX『トラックスⅡ:ザ・ロスト・アルバムズ』を出したと思ったらもうこんなアイテムを用意していたとは。
それは、もっとも異色ながら最重要作と言われる82年リリースのアルバム『ネブラスカ』にまつわるもの。というのもこれはバンドを使わず、自宅の寝室で4chのカセットレコーダーを使い録音、最小限のダビングという極めてローファイなスタイルで作り上げた、彼のようなビッグスターには考えられない一枚で、アルバムタイトル曲は57〜58年にかけてネブラスカ州とワイオミング州で起きた十代の若者が無差別に11人も殺した実際の連続殺人事件を歌ったもの。他にもアメリカ社会の底辺で苦しむ、孤独な人々に目を向けることの重要性をアルバム全体で歌っていてその点でも大きな話題となった。
今回4CD+1Blu-rayの5枚組でリリースされる『ネブラスカ’82:エクスパンデッド・エディション』には、驚かされる音源が山盛りだ。元々この時期に出来上がっていて(発表されたのは2年後)、ドラムス&ベースとのスリーピースでやった「パンクロカビリーみたいだ」という“ボーン・イン・ザ・U.S.A.”の未発表バージョンが先行リリースされているが、自宅で録ったデモやスタジオでの未発表を集めたディスク1の「NEBRASKA OUTTAKES」に始まり、スティーヴィー・ヴァン・ザントらEストリート・バンドで挑んだ「ELECTRIC NEBRASKA」のディスク2、ディスク3は今年春にニュージャージー、レッド・バンクのカウント・ベイシー・シアターで行った同アルバム再現ライブで、Blu-rayには同ライブの映像が収められている(日本盤は対訳字幕が付くのが素晴らしい)。そしてディスク4が最新リマスターという構成だ。その中身の濃さに圧倒されるのがディスク2のエレクトリックセットで、リアルタイムで接していたらどうだったのかと考えだすとキリがない。また11月14日には、同時期の彼を描いた自伝映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』も劇場公開と祭り状態が続く。(大鷹俊一)
ブルース・スプリングスティーンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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