ビョーク圧巻の最新ハイテクライブについて彼女が語っていたことまとめ。”fossora”の公式MVも公開。

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ビョークの日本公演が終わったばかりで、まだ余韻に浸っている方も多いのでは。写真を見る限りでは、ビョークが着実に他の生き物に変貌しつつあるので驚くけど。

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まず最新アルバムからタイトル曲”fossora”の公式MVが発表された。こちら。

彼女の今作のテーマである地下に生息するキノコの中で、人間と植物、動物の間のミュータントのような新生物に変貌し、私たちは変わらなくちゃいけないということを体現しながら、自ら思い切りパンクっぽく表現しているのがまず最高。そして築き上げたこの新世界を祝祭するようにビョークが弾けまくっているので、カッコ良すぎる。思いっきり未来に向かっている。

ちなみに、いきなり話はそれるけど、ビョークは今作を作る前にNetflixで見た『素晴らしき、きのこの世界』がインスピレーションになったと言っていた。キノコの世界があまりに洗練されていて驚いた、と。キノコと言ったら、『ザ・ラスト・オブ・アス』で世界を崩壊させる菌をばら撒くのもキノコだ。クリエイター達は、キノコの世界があまりに洗練されているから、そこから菌が発生したら人類は本当に終わりと言っていた。突き詰めるとキノコなんだ、というのは共通で、でもビョークはそこに未来を、『ザ・ラスト・オブ・アス』はそこで世界の終わりと愛を描いたのが面白いと思った。

話は戻って、今回日本の皆さんがラッキーだったことはたくさんあって、いくつか書き出してみる。

1)オーケストラとのパフォーマンス『オーケストラル』とハイテクの『コーニュコピア』の両方が、同時にライブで観られた恐らく世界初の国であること。

『コーニュコピア』は2019年5月にNYで始まったパフォーマンスで、『オーケストラル』は、去年の10月にアイスランドから配信されたコンサートだ。この両方は、その後世界各地でパフォーマンスされているけど、その両方が同時に観られた場所はこれまでないと思う。もし違っていたら教えてください。とりあえず見つからなかった。ビョークの両極端の世界を同時に堪能できた日本の皆さんはラッキーだ。


2)さらに、『オーケストラル』はもともとロックダウン中にアイスランドから4回にわたってアルバムごとに分けて演奏された。以前ご紹介した通り。
https://rockinon.com/blog/nakamura/200333

日本ではその4回が1回に凝縮されて演奏されたので、セットリストがベストヒットのような内容になっていたと思う。だからそれも貴重だ。

この4回の配信を見た人も多いと思うけど、これは、彼女が全アルバムで地元アイスランドのミュージシャン達と何らかの形でコラボしてきたことを誇りに思い祝福する内容だった。配信の際は、アルバムでコラボしたミュージシャン達も演奏した。彼女がロックダウンをアイスランドで過ごしたこととも大きな関係があるはずだ。その後、世界を巡回するにあたりそれぞれ地元のミュージシャン達とコラボしているので、それはそれで新しい刺激となって素晴らしいと思う。

また、『オーケストラル』の実施にはチャリティというより大きな目的もあった。その時のビョークのコメント。

「親愛なるみな様へ

私のコンサートへ招待したいと思います。これはコロナ禍で最も被害を受けた人達、そしてBlack Lives Matterムーブメントへ敬意を表するために行うものです。
また、これまでの何年もの間に、何人ものアイスランドのミュージシャンと共演してきたことに敬意を表するためでもあります。
『ホモジェニック』では、The Icelandic String Octet、『メダラ』では、Schola Cantorum (Icelandic Mixed Choir)、『ヴォルタ』では、私がアイスランド中で捜して見つけた10人のブラスバンドの女の子達。彼女達はのちにWonderbrassを結成。
『バイオフィリア』では、ラングホルトの教会の女性合唱団Graduale Nobili、『ヴァルニキュラ』では、15人編成のストリングアンサンブル、『ユートピア』では、12人の女性のフルート奏者。のちに七重奏のViibraを結成。ライブシリーズ『Cornucopia』では、Þorgerður Ingólfsdóttirの指揮によるHamrahlíðの合唱団。

しかも、それぞれのアルバムを、彼らと一緒に世界中で演奏しました。合わせると全員で100人以上もの人達とです!!
今回私達はその全員が一緒に健康でこの自己隔離を終えることができたことを、Harpaというミュージックホールで8月の週末に3回コンサートを行なって祝福したいと思います。
私なりのフェミニズムの闘い方は、このアレンジをほとんど全部私がやったと自慢することです。というのも、女性がアレンジをした時は、いつだって無視されてしまうことが多いからです。
コンサートは午後に行なわれ、オンラインでライブストリーミングされます。そこでは、アイスランドの女性のためのシェルターへの寄付ができます。
また会場に実際に来る人達は、コンサートの後にチャリティのための食事も用意されています。
コンサートは「アンプラグド」で行なわれ、ビートやエレクトロニクスなしでのパフォーマンスとなります。アイスランド交響楽団とゲストが一緒に演奏します。
私は、今類い稀なる時をみんなで経験していると思っています。ものすごく恐ろしいけど、でも真の変化をもたらすチャンスでもあります。
そして私達が本当に人種差別と向き合うことが要求されています。利益よりも、人間の命のほうが大事だということを、私達は学ばねばなりません。そして自分の内面を見て、私達の隠れた偏見や特権を徹底的に洗い出すことが要求されています。

みんなで謙虚になって学びましょう。

そして変貌しよう。

莫大な愛を込めて、ビョーク」


3)日本では、『コーニュコピア』が最新版にして完成版になっていること。

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『コーニュコピア』は、もともと2019年5月にNYに新しい多目的アートスペースThe Shedができた際の柿落としとして企画されたコンサートだった。その時のレポートはこちら。
https://rockinon.com/blog/nakamura/186218

その時は、『ユートピア』を元にしたもので、この時はまだ最新作の『フォソーラ』ができていなかった。でも、日本のライブは『フォソーラ』後なので、『フォソーラ』の曲も追加されている。しかも、彼女が『フォソーラ』を追加して初めてパフォーマンスしたのは、3月3日のオーストラリアだ。去年もアメリカでパフォーマンスしていたけど、その時は追加されていなかった。だから、『フォソーラ』が追加された最新版を聴けているのがラッキーだ。

また大事なのは、ビョークも「『コーニュコピア』は最初から『フォソーラ』の曲も入って完成だと思っていた」こと。だから、日本で観た形の方が、ビョークが当初から描いたいた完成形なのだ。


4)日本公演には、『フォソーラ』でコラボしたGabber Modus OperandiのKasが参加した。

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『フォソーラ』の曲を演奏し始めたのは日本の前のオーストラリアからのことで、オーストラリアには出演していなかったようなので、日本が初にして現時点では唯一だ!


5)『コニューコピア』のコンセプト。

このショーは、6月にもアイスランドでも開催されるのだけど、そこで彼女がこのショーへの意図を語っている。

「『コーニュコピア』をアイスランドに持って行けて嬉しい。
しかもとうとう『ユートピア』と新作『フォソーラ』両方の曲がパフォーマンスされるから。

これは私がこれまでに行なった最大のショーで、
しかも『コーニュコピア』は、スクリーンと幕とデジタルドレープが最も使われている数少ないショーのひとつでもある。

私はこれを”デジタル・シアター”と呼びたいと思う。

しかもAIとかVRとも違い、古いスタイルのアナログのステージでパフォーマンスされるものでもあり、
(つまりVRの眼鏡の中で行われるものではないってことね。念のため説明すると)
だから、合唱隊がいて、クラリネットがあって、フルートがあって、パーカッションがあって、さらに世界にひとつしかない楽器もいくつかある。

これは、2021年に私がharpa music hallから生配信したコンサート(*『オーケストラル』のこと)とはすごく違うものになる。
あの時は、ビジュアルは全くなかったから(すごく素敵なミュージシャン達はいたけどね、もちろん)。
『コーニュコピア』は言ってみればそれの対極にあり、
それとは反対側にある私を見せるショーであり、
私がこれまで長年デジタルアニメーションチームと一緒にやってきたコラボレーションの積み重ねの成果を見せるようなものだから。

『ヴァルニキュラ』のVRのサウンドミックスをサラウンドでやって、このVRの世界のサラウンドサウンドを、私達が実際に生きる世界に、酸素とか髪の毛とか全てがある場所にも持って来られるということがすごく嬉しかった。しかも、これをステージで、デジタル”laterna magica”という観客がデジタルのカーテンに囲まれた状態で実現できたわけだから」

アイスランドではこの『コーニュコピア』を最高の形で撮影す流ようだ。なので、後に何からの形で観られることになるのではないかと思う。

ビョークが言っているように、彼女は『ヴァルニキュラ』の時はVRに凝っていて、私もMoMAでも見たけど、VRメガネでビデオを公開したりした。

また今回、世界にひとつしかない楽器がいくつも使われているけど、2011年にマンチェスター・インターナショナル・フェスティバルで観た『バイオフィリア』のライブでもいくつも世界にひとつしかない楽器を使ってパフォーマンスしていた。ちなみに、今回『コーニュコピア』をNYのThe Shedの柿落としと決めたのも、このマンチェスターのフェスでビョークと仕事した人が、ディレクターに就任したからと聞いて納得した。
https://rockinon.com/blog/nakamura/54155

ビョークが、長いキャリアの中で関心を持ち、発明し、常に探究してきたものや、最新テクノロジーが、今回の『コーニュコピア』ではこれまでになく結集しているのだと思う。

『コーニュコピア』を紹介したブログの中でも書いたけど、ビョークは当時このショーのコンセプトについて、NYタイムズ紙でこう語っていた。

「フェミニスト的なおとぎ話で、希望があるオルタナな未来を描いたもの」
「意図的に恍惚なもので、だから、皮肉でもある」
「ショー全体は、女性同士で助け合うことを表現している」
フルート奏者は女性で、彼女達はビョークのアイスランドのキャビンに何年間も通っていたそう。「金曜日はフルートデイにして、1日中ブランチをしてリハーサルをしていた」。このショーでのフルートのアレンジをビョークは「未来のためにフルートフォークミュージック」と言っている。

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しかしだからこそ『フォソーラ』の曲が追加されて「完成形」なのだと思う。というのも、ビョークは、『ユートピア』はタイトル通り、理想郷を描いたものであり、「フォソーラ』はキノコの地下の世界でも分かる通り、普通の人から見たらかっ飛びすぎだけど、これでもビョークからした「地に足の付いた現実的な世界」だということだから。なので、日本で観た形は、理想郷に現実世界が追加されているのだ。


6)ライブで使われていた特殊な楽器について解説。

今回のステージにいくつかこのために作られた楽器が使われていた。分かりましたか? また稀な楽器も使われているので、全部持って行けたのか分かりませんが、一応全部紹介します。

a. 円形フルート
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「この円形フルートは4つのフルートを丸くカーブさせてつなげてできている。この楽器を演奏するのには、4人の奏者がカルテットとして一緒に演奏しなくてはいけなくて、4人揃うことが絶対であり、1人では演奏できない。つまり、それぞれの奏者の楽器とのつながりと、他の奏者とのつながりが同じである楽器」


b. 巨大オルガンパイプ

「このオルガンパイプは、EフラットとBフラットの音を出し、パイプが長いため、非常に深くてパワフルな音を出すことができる。大きい方のパイプは、約360キロで、小さい方のパイプは、約153キロ。それはサブコントラオクターブになっていて、大きい方のパイプのEbは19.445544 Hz。小さい方のパイプは、Bbで29,13524 Hz。音があまりに深いので、観客にも振動が伝わるくらいだと思う」

ライブ写真の左の方に垂直に釣り上げられているのが小さい方のパイプだと思います。
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c. Xylosynth

「Xylophonic シンセサイザーとしても知られる楽器で、木琴に似たエレクトロニックパーカッション打楽器。ここで使われていたXylophonicは、1986年Will Wernickによるもので、イギリスのレスターで手作りされたもの」

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d. MULTI Piezoelectric バイオリン

「バイオリンの形に似たもので、3Dプリントした楽器を5つデジタルのソニックウォールに取り付けたもの。3Dプリントは、フロリダインターナショナル大学のマイアミビーチアーバンスタジオでPLAプラスチックで作られたもので、外面はHDポリッシュと車のペイントコーティングがされており、これをデザインした学生を支援するためにプロトタイプが作られた」


e. Aluphone

「このAluphone bellsの形は、フェンスポストのキャップのインスピパイアされたもの。このベルは、好きな位置に置くことができるし、そのひとつをハンドヘルドベルとして使うこともできる。非常にフレキシブルに動かせて、色々なパーカッションレンジメントができる。デンマークのマリンバプレイヤーが開発」


f. リバーブ部屋

「私は喉のウォームアップをすると、頭もそれに共鳴するように思う。頭蓋骨の中に自分だけのチャペルを持っているようなものだと思う。だからこのリバーブ室の形や天井はそれを表したもの」

そこに入って歌う時は、彼女が子供の頃にひとりで森を歩いていた時の響きを再現しているのだそう。

写真の後方に見える小屋の中で、ビョークが歌う場面があったと思う。日本では、”Show Me Forgiveness”を歌ったそう。
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g. Segulharpa

「Segulharpa は電磁アコースティック楽器。中に25本スチール弦が隠れていて、1本1本が、内蔵されたアナログ回路によって生み出されるパワフルな磁場とインタラクティブになっている。タッチセンサーが木目に埋め込まれているので、走者が表面を触ると素晴らしく複雑なインタラクションが起きる」

h.精密に計算されて配置されたサウンドが360度から聴こえるようになっている。

i. 衣装:当初はビョークも含め全員がバルマンを着ていたのだけど、その後ビョークだけは様々なブランドの衣装を着ている。
j. ヘッドピース:James T. Merry 。ビョークと長年コラボしている。
k. 舞台監督:アルゼンチンの映画監督ルクレシア・マルテル、ステージデザインはChiara Stephenson
l. 映像:Tobias Gremmler、 Andy Huang、Nick Knight、M/M

日本公演では、ビョークは全てNoir Kei Ninomiya の衣装を着ていた。
ウィグは日本人アーティストの河野富弘さんが手掛けている。
Kasの衣装は2日間ともトモコイズミ。

ものすごい世界観と情報量のライブだけど、現場にいた人達は、ビョークの世界に飲み込まれたような最高の体験だったのでは?

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最後は得意の拳を上げるポーズで。ビョークは、まだまだ過激に突き進んでる。



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