「またサカナクションに戻ってくることができて、新曲もリリースし、その曲がたくさんの人に届き、追加公演もソールドアウトし、次のサカナクションとしてのスタートが切れるとすごく嬉しいんですが……」
8月27日、サカナクションのホールツアー「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」、追加公演、Kアリーナ横浜2日目。アンコールの最終盤、最後のMCコーナーで、メンバーそれぞれの挨拶に続き、山口一郎はそんなことを話し始めた。「やはり、元には戻れないんです。昔のサカナクションには戻れません。やり方、進め方、みなさんとの距離感も。かといって、未来のことを考えて、新しいサカナクションを作っていくというのも違うなと思いました。過去と未来じゃなく『今』をどう歌うか、どう鳴らすか。5人でみなさんと同じ時代に生まれて繋がれて……今をチームサカナクションで音楽にしていきたいと思います」
そんな話を聞きながら、僕は昨年の7月、サカナクションの復活を告げたツアー「turn」、横浜・ぴあアリーナMMで山口が言っていた言葉を思い出していた。あのとき彼はこんなことを言っていたのだ。「このツアーを経て、病気を抱えながらも進んでいけるという自信がつきましたし、新しいサカナクションになると決意もできました」。
そのふたつの言葉の違いが、この1年、サカナクションがどれほどのものと向き合ってきたのかを痛感させる。それと同時に、「今」と向き合うというその決断が、一足飛びに未来を語る以上にシリアスなものであることも、充分すぎるほど伝わってきた。
実際、この日観たライブは、演出も、演奏も、セットリストも、その中で鳴り響いた新曲“怪獣”も、サカナクションがどんなふうに目の前の今と格闘し、生命を燃やしているのかを、喜びも苦しみも含めて詳らかにするようなものだった。(以下、本誌記事に続く)
文=小川智宏 撮影=後藤武浩
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年11月号より抜粋)
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