「(ブライアン・ウィルソンが)1人でひたすらボーカルを重ねているへんてこなクリップこそ、僕が他のどの曲よりもミュージシャンになりたいと思った理由だったんだよね。純粋に魔法にしか見えなかった」
フリート・フォクシーズが秋分の日に突然発表した4作目『Shore』は文句なしの傑作にして彼らのキャリアでも最高の作品だ。
グリズリー・ベアのメンツなどが参加しながらも基本的にはロビン・ペックノールドがほぼ1人で作ってしまった。本人曰く「すべてを出し切った」作品。
前作の『クラック-アップ』とは陰と陽の関係性にしたかったという今作は、アーサー・ラッセル、ニーナ・シモン、サム・クック、カーティス・メイフィールドなどの影響を受けながら、優雅で温もりがあり希望の光が差してくるシンプルかつ強烈な曲を目標に作られた。バンドとして新たなサウンドが絶妙にちりばめられた洗練されたアレンジも見事だ。
しかし今作が何より感動的なのは、その希望を、ロビンが闇や死をぎりぎりの「岸」で克服して掴み取ったことが明らかに分かるからだ。コロナ禍の中で発売された運命的な今作には、癒しや魂の救済を通り越して、カオスの中でもっと根源的な部分で人間性を奪回できたような気持ちにすらなる。
ロビンはこの突き抜けた普遍作について詳細に語ってくれたのだが、その半分以上を泣く泣く削りつつ可能な限り掲載する。(中村明美)
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