これまでにリリースされた曲で言えば、たとえば“IT'S THE RIGHT TIME”でのピアノサウンドに共鳴するかのような歌声は、歌が感情を表現するものであるのと同時に、身体に訴えかける楽器のひとつでもあることを存分に感じさせる。さらに遡ってみれば、“Two Hearts”では、三浦大知の歌声は「リズム」であるとさえ感じた。ビートやリズムが心臓の鼓動を高鳴らせるのと同じように、三浦大知の声もまたフィジカルに直接作用するような独自の抑揚を持つのだ。さらにピンポイントでの話になるが、“Lullaby”で《数えた羊 奔る無重力のSky》と歌うところのサウンドと歌唱は(MVで観ることのできるダンスも合わせればなお)、まさに無重力の浮遊感を感じさせるものになっていたり、言い出したらキリがないが、それぞれのバラードで表現される歌世界は、以前からサウンドアレンジともシンクロしながら多彩で立体的な景色を生み出しているのである。
三浦大知のバラードは、決してそのエモーションにだけ流されるものではないが、一方で“ふれあうだけで 〜Always with you〜”のようなストレートに感情がこもっていくようなバラードでは、その歌声の響きの美しさをより直接堪能することができる。動画で公開されたこの曲のアカペラバージョンなどは、より、もともとの歌声の素晴らしさを実感する。この歌声の本質があってこそ、曲ごとに自在に足し算も引き算もできるのであり、バラードがただ静かに感情に訴えかける歌であるという概念を鮮やかに覆してみせる。
最新作の“片隅”は、彼のバラード曲がよりフィジカルに作用するものであることを実感させられた楽曲であった。ビートとシンセが織りなすサウンドの広がりに共鳴するように、歌声が空間そのものにバイブレーションを生み出していく。バラード曲でありながら、身体を「動」へと静かに導くバイブスを宿している。彼のバラード曲で、そのスローなテンポ感に焦れたり退屈したりすることがないのは、サウンドアレンジやダンスの素晴らしさもさることながら、何より三浦大知自身の歌の表現の細やかさがあるからだと思う。だから三浦大知のバラードは癖になる。(杉浦美恵)