今週、ドラマ『獣になれない私たち』第1話の放送があり、その想像を超えるヘビーなストーリー展開に驚くとともに、SNSには多くの共感の声があふれていて、思っている以上に、仕事に追われ理不尽な思いを抱えている女性は多いのかもしれない、と思った。ひとつの仕事で多少なりともキャリアを積んできた女性なら、確かに主人公、晶(新垣結衣)に感情移入してしまうし、だから余計にヘビーでツライと感じた第1話だった。
しかも仕事のことだけではない。晶は交際中の京谷(田中圭)と一緒に住もうと約束をしていながら果たされないまま4年が経過していて──実は元カノ(黒木華)が京谷の家に住み着いているからなのだが──何もかもが行き詰まっている状況。さらに晶の生い立ちは辛いことの連続で、父親のDV、母親のマルチ商法にはまった過去、それをきっかけに今は母親とは縁を切っていること、なども語られて、そりゃいくら夜遅くまで残業したとしても、帰りにビールの1杯でも飲まなければ窒息してしまう。
第1話だからこそ、主人公のバックボーンを丁寧に、できるだけ全貌がわかるように描く必要がある。それを説明くさくなく、視聴者が共感できるようなキャラクターとして見せることができているのは、さすが野木亜紀子の脚本だと思う。しかも、この閉塞感マックスの内容から、ラストで脱却の兆しをスカッと見せてくれるあたりに、このドラマの本質がある。そして、この連続ドラマのエンディングに流れる主題歌が、あいみょんの書き下ろし楽曲“今夜このまま”なのである。
第1話のラストは、晶が自分を取り巻く状況からの脱却を図るべく、新しいブーツ、攻撃的な洋服、そしてサングラスで武装して出社し、社長に「業務改善」を突きつけるシーン。この胸のすくようなシーンで流れ始めたのが“今夜このまま”であった。まるで、前を向いて行動しようと思い立つ晶の背中を後押しするようなサウンドと、あいみょんの様々な感情をはらんだ歌声。これまで悶々とドラマを観てきた視聴者が、主人公と同様に「戦う」気持ちを取り戻す、そんな瞬間に、少し鳥肌がたった。素晴らしくドラマに寄り添った主題歌ではないか。
エンディングで、その回に起こったネガティブな状況をひっくり返して次にポジティブにつなげる(あるいは、明るくストーリーが展開した回のエンディングでは次なるハプニングを投げかけるシーンを用意する)という流れは、同じく野木脚本だったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を思い起こさせた。『逃げ恥』では、そうした「何かが動きだす」エンディングシーンで星野源の“恋”が流れ、楽曲を含めてのドラマであることを印象づけた。今回の“今夜このまま”にも、その予感をひしひしと感じる。《今夜はこのまま/泡の中で眠れたらなぁ》という、とてもささやかな、でも切実な願い。これ、働く女性にとっては(もちろん働く男性にとっても)めちゃめちゃ共感性が高い歌詞だと思う。「泡」はいろいろな比喩を含んでいると思うけれど、今の晶にとってはビールを飲んで、心が少しほどけた瞬間のことなんだろうと思う。そして、今後どんどんこの歌が沁みてくる展開になるのではないかと予想する。
主題歌がドラマを盛り上げ、ドラマがさらに主題歌の意味を深めていく、『けもなれ』は、そんなドラマだと思う。第2話が非常に楽しみになった。(杉浦美恵)
話題のドラマ『獣になれない私たち』とあいみょん“今夜このまま”が起こす私たちの切なる願いとの共振
2018.10.12 18:40