DADARAYは素晴らしき「喜劇作家集団」である――三部作から読み解くバンドの正体


そして、川谷が紡ぐ楽曲を肉体化させるメンバー3人の手腕も驚くべきものだ。
まずはREISのボーカル。はじめに断言しておこう、DADARAYといえばなんといってもREISの歌である。
彼女の歌声は蜘蛛の糸のように繊細で伸びやかで、かつ口ずさんだ言葉が薄紅色の花になってこぼれ落ちるようなフェミニニティを帯びている。さらに、あどけなさ、強がり、勝気、悲観、母性――と、あらゆるテーマをカメレオンのごとく表現でき、「女の子」、「女性」、「女」を歌い分けられる強みも持っている。
そんなREISの歌が、川谷のディープでえぐ味が利いた歌詞と出会ったらどうなるか? 楽曲は匿名性を失い、「どこかの誰かの悲しい恋の物語」ではなく、「明日にも自分に降りかかりそうな、他人事ではない実話」として現実性をもつようになる。DADARAYの音楽の肝はおそらくそこにある。個人的に、バンド始動の発表と同時に公開された“イキツクシ”のミュージックビデオを初めて観た時、REISの可憐な歌に悶えるような思いをしたのだが、それは彼女の歌唱と川谷の詞による相乗効果がもたらした、ただならぬリアリティによるものだったのだろう。彼女の歌がなければ、川谷が描く深遠な恋愛観が楽曲として生を受けることはきっとなかった。



また、もうひとりのボーカリストとしてえつこが選ばれたことにも大きな意味がある。REISのボーカルが桜ならばえつこのボーカルは向日葵、と個人的に言いたいのだが、繊細でフェミニンな声を持つ前者に対し、後者はややハスキーがかった声で綾戸智恵ばりのパワフルな響きを放ち、歌だけで他を圧倒しうるシンガーである。だからREISベースの曲におけるえつこのコーラスは女性の強さを楽曲にプラスするものとなっているし、ふたりが交互に歌う2ndミニアルバム『DADAMAN』収録“WOMAN WOMAN”は、女性ボーカルならではの愛らしさと逞しさの両方が味わえる実に聴きごたえのある作品に仕上がっている。印象的なフレーズを奏でるえつこのキーボードももちろん不可欠だが、REISとの見事な化学反応を見せる力強いボーカルもまた、このバンドの音楽を構成する重要なエッセンスだ。

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