ライアン・アダムス、初の単独来日公演を速報レポート

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2017年2月17日(金)に新作『プリズナー』をリリースすることが決定したライアン・アダムスだが、昨日12月9日(金)に初の単独来日公演を行った。

RO69では、東京・新木場スタジオコースト公演のオリジナル・レポート記事をお届けします。

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【ライアン・アダムス @ 新木場スタジオコースト】

昨年のフジ・ロックでのステージがベスト・アクトとの呼び声も高かったライアン・アダムスの、ファン待望の初単独来日公演である。00年代、10年代とふたつのディケイドを横断してオルタナティヴ・ロックを、クラシック・ロックを、カントリーを、フォークを、様々なジャンルが混在した音楽を、でも究極的には「ひとりの男の歌」を歌い繋いできた希有のシンガー・ソングライターの全貌を、ソロ・デビューから16年、ウィスキータウン時代から数えれば20年以上の歳月を経て初めて2時間に及んだ充実のセットの中で体験できる貴重な1日だったのだ。

ライアンは「今日が今年の僕のラスト・ライブだ」と言っていたけれど、面白かったのはこの日の彼のパフォーマンスは1年の締め括り、総決算的な意味合いと同時に、むしろ2017年を早くも見据えた新しい始まりも強く感じさせるものだった点だ。初の単独来日公演という日本のファンにとってメモラブルな1日であると同時に、ライアンの脈々と続くキャリアの中でも重要な転機、起動の意味を占めるライブだったという点だ。なぜならこの日のライブは、来日直前に明らかになったライアン・アダムスのニュー・アルバム『プリズナー』のプレ・ショウと言ってもいい内容だったからで、今回の日本公演と、その直前におこなったシドニーでの2公演のみが来年2月リリースのこの新作を踏まえたライブとなったという意味でもプレミアだったのだ。

オープニングは『プリズナー』からの先行シングル、つまり新曲の“Do You Still Love Me?”で幕を開けた。『プリズナー』は昨年ライアンが経験したマンディ・ムーアとの離婚という個人的事情が恐らくは直反映されている非常にパーソナルな一枚で、それだけに彼の声の近さというか、直接こちらの胸に訴えかけてくる切実さが段違いな“Do You Still Love Me?”にまずは驚かされる。いわゆる傷心アルバムとは言え、ペシミスティックにしょぼくれたそれではなく、ライアンが取ったアプローチは哀しみや喪失をすべて曝け出すことで癒しに転じていくそれで、聴く者の心を揺さぶっていく発散型のプレイになっているのが素晴らしい。

もともと自身の感情が声と、ギターと、バンドとの意思疎通と完全に直結しているアーティストなだけに、初めて聴く新作からのナンバーが頭で理解するより先に、血流に乗って身体の隅々まで染み渡り、行き渡るような、彼と私たちオーディエンスの直接のコネクトが感動的だ。旧曲も今のライアンの曝け出すモードに呼応して、どこまでもオープンで生々しいタッチだ。ピンスポの真下でぽつり、ぽつりと吐露されていた独唱が堰を切ったように爆発するギター・ソロに転じ、ギリギリまで抑揚を抑えて刻まれていたメンバーのギター・リフやドラムスが、そのライアンの叫びと瞬時に呼応していく“Dirty Rain”や、泣きメロの極地“Fix It”の饒舌さも尋常ではない。下手なギミックやアレンジは必要なし、いい歌とメロディ、素晴らしい声とギターがあれば、こんなにも縦横無尽に思いを伝え、聴く者を感動させられるのだという、シンプルな驚きに満ちたパフォーマンスだ。イントロでうまく乗れずに「ごめん、ジェットラグでさ、もう一回やらせて?」と謝りつつ仕切り直した“Am I Safe”での大振りのストロークでヘヴィ・ノイズをまき散らしまくるライアンのギター・ヒーローっぷりから、カージナルス名義でのナンバー“Let It Ride”への流れも最高!だった。

後半には当初セットリストには記載されていなかったオアシスの“Wonderwall”のカバーも披露してくれた。改めて思うに、ライブの場でこの曲をここまで歌い手の声のみに集中して聴き入ることって滅多にないのではないか。オアシスがライブで“Wonderwall”を演る時、それはすぐさま会場を埋めた数万人の歌になっていくし、リアムもノエルもそのつもりで演っている。でも、ライアンが“Woderwall”を歌う時、それはあくまでも「彼」だけの歌になる。曲間にどよめきのような歓声が少し上がった以外は静まり返り、彼の歌に集中していたオーディエンスはライアンがこの曲をやる意味を120%理解し、リスペクトしていたと思う。リスペクトと言えば、この日はスマホで撮影しているオーディエンスが極端に少なかったのも印象的だった。メニエール症を患っているライアンにとってカメラのフラッシュが毒であるという了解があったのはもちろんのこと、「彼」と「私」が一対一で対峙する純化された体験、その間に敢えてスマホを介する気分にはならなかった、ということなのかもしれない。

思いっきりロックンロール・アレンジでやりきったソロ原点の曲、『ハートブレイカー』の“Shakedown on 9th Street”、そしてアンコール・ラストで披露された“Gimme Something Good”と、クライマックスでは何度も何度も打ち寄せる波のように歓声があがる。16年間待ったに相応しい、ライアン・アダムスと私たちのどこまでも濃密にして親密な2時間に相応しい幕切れだった。(粉川しの)

〈SETLIST〉
01. Do You Still Love Me?
02. Magnolia Mountain
03. Dirty Rain
04. Haunted House
05. Everybody Knows
06. Kim
07. Peaceful Valley
08. Fix It
09. Anything I Say to You Now
10. Outbound Train
11. Am I Safe
12. Let It Ride
13. I Love You But I Don't Know What To Say
14. Cold Roses
15. When the Stars Go Blue
16. Wonderwall
17. Shakedown on 9th Street

En1. Prisoner
En2. Gimme Something Good
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