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    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - All pics by KAZUMICHI KOKEIAll pics by KAZUMICHI KOKEI
    恵比寿ガーデンホールからZepp DiverCityへと一時拠点を移して開催されていた『HOSTESS CLUB WEEKENDER』だが、第5回目となる今回は再び恵比寿ガーデンホールに戻ってきた。お台場のショッピングモールの中にあるDiverCityで休日の家族連れや観光客に混ざってインディ・キッズがハッスルしている画もなかなかシュールで面白かったけれど、ガーデンホールのシティライクな箱庭感がこのイベントにはやっぱり似合っているかもしれない。ちなみに次回Hostess Club Weekender(第6回)も既に11月にガーデンホールでの開催が決まっており、ディアハンター、ニュートラル・ミルク・ホテル、セバドー、オマー・スリマン、アウストラ、テンプルズというラインナップが発表されている。

    初日となった昨日はムームをヘッドライナーに戴き、ジーズ・ニュー・ピューリタンズやチーム・ミーといった言わば「インディ高踏派」が集結したアーティな一日だった。Hostess Club Weekenderの色濃い個性であるインディの最前線、不可測な同時代性のエッセンスがぎゅっと詰まっていた。対してこの2日目は、かなり様子や意味が違ったと言っていいだろう。何しろヘッドライナーがかのトラヴィスで、その前を固めるのがエディターズという、恐ろしくメジャーかつ鉄板なUKロックの布陣が敷かれていたのだ。なお、2日通し券はもちろん完売に加えて、2日目は1日券も完全ソールドアウトだった。この日のヘッドライナーを務めたトラヴィスの根強い人気を改めて確認する格好だ。

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - British Sea PowerBritish Sea Power
    そんな「UKデー」となった2日目の先陣を飾ったのがブリティッシュ・シー・パワーだ。今年2年ぶりとなる新作『マシンナリーズ・オブ・ジョイ』をリリースした彼らだが、1曲目はそんな新作からのナンバー“Machineries of Joy”でゆったりフォーキーにスタートする。ヴァイオリンとピアノが通奏するクラシカルな佇まいがまさにBSPで、そのクラシカルで静謐なサウンドスケープを例えば“Remember Me”のようなナンバーで一気に突き破っていくフリーキーなポスト・パンク精神もまたBSPの十八番だ。美メロの中に狂気を這わせ、フロアダイヴをかますような青臭い破天荒の中に知性を漂わせるというアンビバレンツこそがBSPの真骨頂であることを証明するかのようなライヴ。彼らは一時期(2000年代後半)、脱ギター・ロック的なコンセプト色の強い作品に傾倒したこともあったが、デビュー10周年を迎えた今、再びBSPらしさのようなものに勇気を持って立ち還ったように感じた。

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - Little BarrieLittle Barrie
    BSPの演奏中から既に立錐の余地がないほどギチギチだったフロアがさらに人口密度を上げていく。こんな早い出順から完全に埋まりきったHostess Club Weekenderのガーデンホールを初めて観たし、それほどまでにロイヤルなファンの支持を集めていたのが続いて登場のリトル・バーリーだ。1曲目の“Surf Hell”でジャキーン!!とイントロのリフがキマった瞬間に一気に場内の空気はロックンロールの鉄火場へとリセットされていく。ブルージーかつ骨太なロックンロールを3ピースの最小単位で最大限表現していく、その原則から1ミリもぶれない徹底した王道のパフォーマンスだった。ギター、ベース、ドラムスがそれぞれに見せ場となるソロ・パートを持ち、大見得を切っていく“Precious Pressure”のようなオールドファッションなナンバーがばっちり嵌るのもこのバンドの強みだと思う。プライマル・スクリームからポール・ウェラー、モリッシーにまで愛されるギタリストとなったバーリーは、「ギター・ヒーロー」不在の2000年代以降のUKシーンにあって稀な存在だし、ギター・ソロで歓声が沸いたライヴというのも今回のHostess Club Weekender 2日通しても彼らだけだったかもしれない。

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - WavvesWavves
    続いて登場したウェーヴスはこの日のラインナップ中では異色のアクトだった。サンディエゴ出身のネイサン・ウィリアムス率いる彼らは2日目唯一のUSアクトで、歪でノイジーなローファイ・ガレージ/サーフ・ポップをまき散らす彼らのショウは、むしろ初日のアート・ロック&同時代性のムードに近いものがあったと思う。初っ端の“Idiot”から“King Of The Beach”までノンストップ、アルバム音源よりさらに粗く大胆なパフォーマンスで、「やりっぱなし」「散らかしっぱなし」のセンスがめちゃくちゃいい。ビーチ・ボーイズ調の甘いポップ・メロディをディストーションやディレイで容赦なく掻き消していく、その残酷な思い切りの良さがウェーヴスと他の耽溺系ドリーム・ポップ勢を分ける差だと思う。そんな彼らのルーツを垣間見れたのがソニック・ユースの“100%”のカヴァーで、最っ高に耳触りの悪いノイズが文字通り100%の出力で放出され、痺れるような快感に襲われた。アディダスのランニングからタトゥーが入りまくった二の腕をにょきっと露出させてるネイサンのアウトフィットもまた異彩を放ってた。

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - EditorsEditors
    そんなウェーヴスと凄まじいギャップを醸し出しながら登場したのがエディターズだ。ウェーヴスがローファイかつ破滅型のパンクスだったとしたら、エディターズはむちゃくちゃハイファイで構築型の横綱UKロックだ。何しろ直近のアルバム2枚が全英初登場1位、本国では余裕でアリーナを埋める若手のホープである。見た目はいかもに優等生カレッジ・ロッカーな彼らだけれど、6月26日リリース予定の新作『ザ・ウェイト・オブ・ユア・ラヴ』からのナンバーも交えた最新のセットリストは、彼らの脱インディなスケール、U2やコールドプレイの後継者たるアリーナ・ロックのダイナミズムを遺憾なく発揮するものになっていた。当時はジョイ・ディヴィジョンとの比較で語られまくっていた“Bullets”のような憂鬱のポスト・パンク・ナンバーがパワー・ドラムに先導される大アンセムに育っていたりと、とにかくヌケの良さが過去と比較にならないくらい向上している。ラストを新曲の“Honesty”で〆たのも彼らの現在地への自信の表れだろう。

    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
    Hostess Club Weekender(第5回)2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - TravisTravis
    そして19時5分のほぼ定刻通りに、ついにトラヴィスが登場する。彼らの来日は2009年以来実に4年ぶりだ。1曲目は“Mother”、今年8月にリリースが予定されている待望の新作『ウェア・ユー・スタンド』のナンバーだ。そう、つまりトラヴィスは未知の曲でまっさらなスタートを切ったわけなのだが、アルペジオから一気に拡散していく“Mother”のシンフォニックな音響はまさに「トラヴィス印」と呼ぶべきサウンドで、未知の次元にリーチした楽曲と言うよりもむしろトラヴィスのあるべき姿に彼らが戻ったことを告げる号令だったと言っていい。前作『オード・トゥ・ジェイ・スミス』はハードなロックンロール・アルバムで、トラヴィスとしてはかなりの冒険、新機軸だった。それに比べると来たる新作『ウェア・ユー・スタンド』は恐らくは原点回帰的な一枚になるだろうことを予感させるスターターだったのだ。

    “Writing to Reach You”、“Driftwood”といった往年の大名曲と“Moving”、“Where You Stand”といった最新曲がバランスよく組まれた中盤までのセットリストは、それぞれの曲間の最大で15年近い年月のギャップを一切感じさせない一定の美観が保たれていく。そして後半、“Closer”で大合唱が巻き起こって以降はクライマックスに向けて容赦なくアンセムが立て続けにドロップされていく。“Sing”、“Side”なんてほんと反則的な連打だったし、“Turn”で本編が終わるというのは2009年の東京国際フォーラム公演と同じ演出だった。しかしそれでいいのだ。それでこそトラヴィスなのだ。「残るのはバンドではなく曲である」という彼らの信条を具現化するように、バンドの進化&変化を超越した証として変わらぬ曲がそこに鳴り続けること、それがトラヴィスの唯一無二の個性なのだから。

    鳴り止まない拍手の中、再びバンドがステージに戻って来る。アコギを抱えたフランを手ぶらの他メンバーがわらわらと取り囲み、フランがマイクを避けたところで始まるのがこれまた恒例の“Flowers in The Window”の完全アンプラグド・バージョンだ。フランの美しい地声のファルセットがフロアの後方まで行き渡ったのを確認したところで、満を持してオーディエンスの大合唱となる。そして最後はもちろん“Why Does It Always Rain On Me?”。フロアにはいくつも傘が咲き、大ホッピング大会が始まる。これまた4年前と全く同じ光景、そして全く同じ、最高の大団円だ。

    そんなトラヴィスのステージで幕を下ろした2日目のHostess Club Weekenderは、同時代性よりも普遍性が勝った一日だったと言えるかもしれない。2013年のインディ・ロックの可能性や変貌を示唆した初日、そしていつの時代も聴き手の心に根差すエヴァーグリーンな存在を明らかにした2日目。2日間でこの鮮やかな振れ幅を描いてしまうのもまた、Hostess Club Weekenderというイベントの面白さかもしれない。(粉川しの)


    BRITISH SEA POWER
    Machineries of Joy
    Apologies To Insect Life
    Remember Me
    Waving Flags
    No Lucifer
    Loving Animals
    Mongk 2
    A Light Above Descending
    The Spirit of St. Louis
    Carrion
    All In It

    LITTLE BARRIE
    Surf Hell
    Black Mind
    Precious Pressure
    Tip It Over
    Bonneville
    Pauline
    Money In Paper
    Fuzz Bomb
    I Can’t Wait
    New Diamond Love
    Love You
    Postcode Blues

    WAVVES
    Idiot
    Super Soaker
    King Of The Beach
    Bug
    Demon to Lean
    Paranoid
    Afraid of Heights
    Post Asid
    Friends Are Gone
    Beat Me Up
    Sail To The Sun
    100% (Sonic Youth cover)
    Green Eyes
    No Hope Kids

    EDITORS
    Sugar
    A Ton Of Love
    Munich
    Bullets
    Two Hearted Spider
    An End Has a Start
    Formaldehyde
    Smokers Outside the Hospital Doors
    The Phone Book
    The Racing Rats
    Papillon
    Honesty

    TRAVIS
    Mother
    Selfish Jean
    Writing to Reach You
    As You Are
    Moving
    Love Will Come Through
    Where You Stand
    Driftwood
    My Eyes
    Another Guy
    Closer
    Reminder
    Sing
    Side
    Slide Show
    Blue Flashing light
    Turn
    (encore)
    Flowers in The Window
    Why Does It Always Rain On Me?
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