●YOUTH LAGOON (14:00~14:45)
最初の出演者となったのは、昨年10月に『ザ・イヤー・オブ・ハイバーネイション』でアルバム・デビューを果たした米アイダホ出身の23歳のベッドルーム・ポッパー、トレバー・パワーズによるソロ・プロジェクト=ユース・ラグーン。初来日である。デビュー間もないアクトなので、2日間のトップを任せて大丈夫か、と筆者は少し心配してしまっていたのだが、まったくの杞憂だった。作品で触れることの出来た歌唱力を100パーセント発揮する、堂々のパフォーマンス。少年時代の心象風景を、鍵盤とともに老成してしまったような歌で生々しく再現する。まるで童謡のようにこなれてしまったフォーキーなメロディのポップ・ソングの数々には、荒ぶるわけでもないのに何か戦慄を覚えるような透徹した視線がある。確信的なプロジェクト名が物語っているように、ユース・ラグーンは既に完璧なヴィジョンと表現力を持ったアーティストだ。今回は友人のギター・プレイヤーを引き連れてのステージだった。
●ZULU WINTER (15:15~16:00)
2番手を務めるのは、ロンドン出身の5人組にして、まだデビュー・アルバムすら発表していない新星、ズールー・ウィンター。もちろん初来日である。ウィルが「コニチハー! ズールー・ウィンター、デス。ハジメマシテ」と挨拶して、繊細な詩情とキラキラしたサウンドで織り込まれたダンサブルなロックを披露してゆく。序盤に最新シングル“We Should Be Swimming”を披露し、もともとは余り押しの強さを感じさせないパフォーマンスだけれども、次第にサウンドの説得力が増してゆく。ウィルのクリスピーな節回しが楽曲にドライヴ感を加える“Let’s Move Back To Front”から、サンプリング・ヴォイスのリフレインが加えられたエモーショナルなナンバー“Never Leave”へ。ナイーヴさゆえの生真面目な構築力を感じさせる彼らの楽曲群は、キャリアを重ねてゆくことでスケール感を膨らませてゆくように思えた。今春にはデビュー・アルバムが発表される予定になっているという。
●WU LYF (16:30~17:30)
こちらは一転して、ゴリ押しのダイナミズムが痛快だったマンチェスター発の4ピース、ウー・ライフ。昨夏フジ・ロック時以来の来日。リーゼントにジャケット姿のエラリーが、オルガンを叩きながら繰り出す強烈な嗄れ声のヴォーカル。傲岸不遜にしてやさぐれた、だけどどこか気高さも感じさせる爆発的なロック・サウンドがホールを満たす。「いやー、いい気分だ。ジェームス・ブラウンが降りてきたみたいだぜ」とエラリーは歌のまんまの嗄れ声で告げ、“Spitting Blood”へと向かっていった。ドラマーのジョセフは、ただでさえTシャツ+ハーフパンツというラフな格好だったのに上半身裸になっている。キーボードに日の丸を掲げていたエラリーは、「日本のために歌うよ」と犬の遠吠えのような発声を繰り出しながら“14 Crowns For Me & Your Friends”を披露してくれた。泣かせてくれるじゃないか。彼らの世代にとってのブルースは、例えばこんな形をしているのだな、ということがひしひしと伝わる、胸アツのパフォーマンスであった。
●OWEN PALLET (18:15~19:15)
事前にバンド編成での参加がアナウンスされていたのだが、ドラム・セットやキーボードが設置されたステージに「コーンバンハ!」と姿を見せたのはオーウェン・パレットひとり。ヴァイオリンを掲げ、フィンガー・ピッキングと弓弾きを織り交ぜたフレーズを足下のペダル操作でループさせながら、美しいテナー・ヴォイスで歌い出す。一気に引き込まれるポップ・ミュージックの至芸だ。更にはキーボードも加え、自由自在に楽曲を展開させてしまう。そのまま2曲を披露したところで、ようやくドラムスとギター兼キーボードに1名ずつのサポート・メンバーが登場するのだが、加味されるサウンドはテクニカルながら控え目なもので、なにしろオーウェンから目が離せない。ファイナル・ファンタジー名義で活動していた頃からインディ・ポップ・ファンの間で語り草となっていた彼の表現。このチャーミング&ストレンジなパフォーマンスは、幼少時から学んでいたクラシカルな音楽の道からワイルド・サイドへと踏み出した、彼の自由な志の表れではないかと感じられる。目映いリフレインに沸く“Lewis Takes Off His Shirt”でフィニッシュ。ラインナップの最終発表で滑り込んだオーウェンだったけれど、これは素晴らしいブッキングだった。
●THE HORRORS (20:00~)
ひときわ大きな歓声を浴びて登場した初日のトリは、英エセックス州出身の5人組、今やUKの国民的バンドと呼ぶべきザ・ホラーズだ。甘く気怠いサイケ・イントロが展開し小気味好く走り出す“Endless Blue”から、黒いTシャツの袖をたくしあげたフロントマン=ファリスが歌い始める。彼のヴォーカル・マイク音量が物足りないのと、強いリヴァーブで歌声が散ってしまうことが気になったが、徐々に本領を曝け出してゆくジョシュアのギター・サウンドが凄い。ジョイ・ディヴィジョンからジザメリ、マイブラ、スピリチュアライズドのジェイソンが在籍していたスペースメン3までも連想させる、UKインディー・ロックを総覧するような振り幅のサウンドを次々に繰り出してしまうのだ。そしてホラーズは、ロックの最も基本的なビート文体から決して逃げない。どれだけジェイソンのギターが暴れ回っても、根底のキャッチーさが揺るがないのだ。デビュー以後、表面的にはスタイルを大きく変遷させてきたホラーズだけれど、今回のステージでは彼らの、筋の通ったメカニズムを垣間見た手応えがあった。本編後半の“Scarlet Fields”~“Dive In”~“Sea Within A Sea”辺りの流れがめちゃめちゃカッコいい。アンコールでは、フィードバック狙いのジョシュアが勢い余ってギター・アンプをなぎ倒してしまうし、ファリスも最後にはフロアに飛び込んで大興奮の1時間強であった。
期待通りかそれ以上に、素晴らしいアクトが並んだ初日であった。筆者は2日目に参加できないことがずっと気がかりだったのだけれど、オーウェン・パレットを観る頃にはすでに満足感が得られてしまっていた。とはいえ、2日目も注目すべきアクトがズラリと揃っているので、参加者は存分にこの特別な週末を堪能して欲しい。(小池宏和)