a flood of circle @ Shibuya O-EAST

a flood of circle @ Shibuya O-EAST
揺るぎない前進意志の塊。この日のステージ上、オーディエンスの眼前にドンと置かれたものはそれだった。2011年初のa flood of circleワンマンとなる『X DAY 20110406:単独極東上陸作戦決行日』である。素肌にジャケットを羽織った渡邊一丘(Dr.)がひとり強力なビートを叩き出し、続いてワンマン公演初登場となる黒いミニ・ドレス&ヒール・ブーツ姿の新ベーシストHISAYOが、そしてサポート・ギタリストの曽根巧が、と順に登場して音を重ねてゆく。最後に姿を現した佐々木亮介(Vo.&G.)が自身のギターを頭上に高く掲げて満場のオーディエンスによる歓声を浴び、転がり出したオープニング・ナンバーはいきなり、配信リリースされた目下の最新シングル“Miss X DAY”である。

さしずめこの日の「Miss X DAY」はHISAYO、ということになるのだろうか。続けて“GHOST”、“博士の異常な愛情”と放たれる楽曲群にコーラスを乗せつつ、ひた走るようなベース・ラインによってダイナミックなバンドのコンビネーションをグイグイと牽引する。そして内から何かを抉り出すように歌を浴びせかける佐々木は、この3曲を終えたところで「a flood of circleです! ヨロシクドーゾ! ……ぶっとばして行きますんで」と、その発語のすべてに濁点がひとつずつ加えられるような昂った挨拶を済ませるのであった。渡邊はここで早くも上半身裸に、曽根も長袖のシャツを脱ぎ捨てる。もう見るからに全員が全員、気合が漲っているのである。

そしてダンサブルな裏打ちにフロアが波打つ“フェルディナン・グリフォン・サーカス”を経た後、鬼リフの絨毯爆撃を佐々木の強靭な歌メロがかいくぐる“Blood Red Shoes”、そして“~グリフォン・サーカス”に勝るとも劣らない爆走ダンス・ロック・チューン“ミッドナイト・サン”、さらに歌のフックを浴びせかけてスタートする“Sweet Home Battle Field”と、初公開ナンバーを含めて新曲が続けざまに放たれてゆく。凄い。これではまるで新作アルバムのツアーだ。「久々のワンマンってことで気合入れて来たんですが、気合入れ過ぎて新曲が3つも出来ちゃって。次は、みんなが引くぐらい、ドロ臭いのやります」と佐々木。今度はズブッズブのブルース・フレーズがクライマックスに向けて決壊してゆくような1曲、その名も“Hide & Seek Blues”だ。ここまでの8曲のうち、なんと5曲がアルバム未収、3曲が初公開の新曲である。

afocのリリース・ペースの早さは良く知られているが、それにしてもただ多産なだけではなく、どれもこれもがロックとして非常にエッジの鋭いナンバーばかりであることが素晴らしい。今回の新曲群もすべからくそうだった。佐々木はその声ひとつだけ取っても優れたブルース・マンでありロッカーなわけだが、afocは古典的なロックにも、またハウス/テクノ以降のダンス・ミュージックのエンジンをそのまま乗せたダンス・ロックにも振り切れない、その2つのエッセンスを折衷した絶妙なバランスで数々の名曲を産み落としてゆく。早い話、見事にロックンロールなのに現代のグルーヴやスピード感を掴まえていて、またポップなのに強烈にブルージーで奥深いのである。この落とし所を決して外すことなく、次から次へと優れた楽曲を生み出してしまえるということには驚嘆を禁じ得ない。

「5年ロック・バンドをやってきて、職業欄も特技もロックしか書くことなくて、結構、手ブラで来ちゃったなって思うんですけど、ロックにピントを合わせていれば、何とかここまでやってこれました。ありがとうございます。……信じ抜くことって大変だな、と思いながら、でも僕にとってはコレ(ギター)と信頼できる仲間しかないんで。今、僕に出来ることはこれだと思って、やります。もし、皆さんにとっても何かしら信じられるものになれば、という気持ちを込めて歌います」。

そして歌われたのは、エモーショナルでどこか眩さも持ち合わせる一曲“水の泡”だった。節電によるものか光量は控え目ながら、極めて効果的に使われる照明も素晴らしい。更に思いを昂らせるようにして披露された“ロシナンテ”、そして“Human License”から始まった終盤のパーティ・チューン乱舞は、圧巻の一語に尽きるものであった。「2011年もa flood of circleはバリバリやっていきますが、俺たちに出来ることを、やります。《これから》のためにこの曲を歌うので、《これから》のために聴いてください」と、佐々木はステージの淵にまで歩み出て、“ノック”の序盤をマイクレスの弾き語りで聴かせたのであった。

アンコールで佐々木は、HISAYOがワンマン初登場となったことに触れてから「5年やって来たって言ったけど、この5年の激動ぶりたるや、ね。ちょっとやそっとじゃへこたれません」と話して笑いを誘っていた。優れたロック・ナンバーを次々に生み出し圧巻のライブ・パフォーマンスを行ってきたafocは、しかしバンドとして順風満帆な活動を経て来たわけではない。むしろ、バンドとして活動が破綻してもおかしくないような危機を幾つも乗り越え、(気安く言えることではないが)現実のブルースと取っ組み合い転がるようにしながらここまで歩を進めて来た。彼らはまた先に進むのだと思う。“ブラックバード”も“象のブルース”も“泥水のメロディー”も無かった。しかしその代わり、新たに掴み取った確かなものを、彼らは見せてくれたのだった。(小池宏和)

セット・リスト
1:Miss X DAY
2:Ghost
3:博士の異常な愛情
4:フェルディナン・グリフォン・サーカス
5:Blood Red Shoes〈新曲〉
6:ミッドナイト・サン〈新曲〉
7:Sweet Home Battle Field
8:Hide & Seek Blues〈新曲〉
9:Forest Walker
10:水の泡
11:ロシナンテ
12:Human License
13:Chameleon Baby
14:プシケ
15:ノック
EN-1:最後の晩餐
EN-2:春の嵐
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