今年の出演アーティストは昨年の7組から11組に増加し、ステージは「WORLD WIDE AREA」、「RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREA」とエリア名は異なるものの、昨年同様2ステージ制で進行。WOMBがこれまで培ってきたサウンド・システム、LEDエフェクト、映像、煌びやかなフルカラー・レーザーやライティングをフル活用した年内最後のダンス・ミュージック・フェスティバルである。
会場へ入るとすぐさま「RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREA」へ直行。AKi、ロニ・サイズと、ドラムンベースを幕張メッセのような大バコで浴びるように聴ける機会はめったにないし、個人的にもすごく楽しみにしていたセットだ。トップバッターのAKiは、ケミスツやYMOの“TechnoPolice”もスピンしてフロアを盛り上げる。続くドラムンベースのパイオニア、ロニはもう少し柔らかいセットかと思っていたのだけど、見事にバッキバキな展開。しかも途中にジャスティスなんかも挟む超攻撃的なドラムンである。今年の『WOMB ADVENTURE』は、まずドラムンでぶち上がったような、ラインナップとしても強烈な印象を残していった(おかげで裏のロバート・ディーツを見逃してしまいました)。
「WORLD WIDE AREA」の23:30 過ぎからスタートしたカール・クレイグは、やはり貫禄のプレイを見せつける。序盤はBPMを落としゆったりと硬めのトラックをスピンしていくものの、ビートが入れ替わり、そしてブレイクスが訪れる度にぎっしりと埋まったフロアから大きな歓声が上がる。カールも時折激しい身振りでフロアを煽り、二カッと満面の笑みを浮かべながら楽しそうにプレイしている。ロバート・フッド、ジェフ・ミルズ、ムーディーマンといったクラシックスを挟み、MPCを巧みに駆使しながらプレイするカール。音の粒子が1つ1つ編みこまれるようにミックスされ、フロアは彼の作り出す宇宙空間を気持ちよく遊泳する。なんだろう、音はどこまでもストイックで硬い音なのに宙へと浮いていくようなこの感じは。カールはラスト・トラックに、彼のテクノがどこまでもフリースタイルであることを象徴するようにクアンティックの“Un Canto A Mi Tierra”をスピンし、オーディエンスの度肝を抜く。ライティングが他のアクトほどの派手さはなかったカールは、やはり今宵のラインナップの中でも明らかに異彩であり、音のみで際立った世界を構築していった。
カールに続く「WORLD WIDE AREA」に登場したのはガイザー。リッチー主宰のレーベル<MINUS>からデビューした彼は、パーカッシヴなトラックを多用した心地良いミニマルを展開していく。パーカッションの濃度が徐々に増していってもベース・ラインはなく、曲が始まってかなりの時間を経てからアタックの強いキック・ドラムが入る。ポコポコしたミニマルの反復で陶酔させるというよりは、バズとビートでメリハリをつけきちんと盛り上げる瞬間を作ってくれる良いプレイだった。
同時刻の「RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREA」に現れたイタロ・エレクトロ・デュオのクルッカーズは、なんとダフト・パンクがフルスコアで書き下ろした映画「トロン・レガシー」のサントラから早速“Derezzed”をスピンする。もちろんプレイされたこと自体驚きだったが、ダフトがあくまで映画音楽として制作した“Derezzed”がここまでフロア対応の爆熱ナンバーとして作用するとは……。しかもまだリリースされていないトラックを(公開されてはいるけれど)すぐにダフトの曲として受け入れているオーディエンスがいたのもなんだか余計に感動してしまった。それにしてもエレクトロである。時間をかけてピークに持っていくというダンス・ミュージックの方法論を無効化し、たった1曲で沸点に到達させる00年代以降のエレクトロのアゲ方には、やはりロックのダイナミズムが宿っているのだろう。
そして時刻は2:30の「WORLD WIDE AREA」。 いよいよ本日のメイン・アクト、リッチー・ホゥティン、PLASTIKMAN名義のライブ・セットである。「WORLD WIDE AREA」にはこの日一番のオーディエンスが詰めかけ、凄まじい熱気が立ち込めている。ステージ後方のカーテンがバサッと落ちるとそこに現れたのは巨大な円柱型のLEDスクリーン。(つまりこれまでのロベルト、カール、ガイザーはそのカーテンの前にブースが組まれてプレイしていたわけ)リッチーがプレイしているのは円柱の上ではなくその中、様々な機材に囲まれた近未来的なテクノロジー・ドームである。
オープニングは“Ask Yourself”。そして緩やかなビートに少しずつアシッドを練り込んでいく続く“Plasticine”でいよいよこれから!という時にまさかの機材トラブルで音がストップしてしまう。闇に包まれて5分弱、ようやく再開したものの、正直、フロアの高揚感が一気に解かれてしまったんじゃないかと思った。(何よりリッチー本人が一番イラついていたはずだ)しかし、そんな不安すら飲み込んでしまうほどの圧倒的な映像美と音壁――“Marbles”から“Kriket”へ、アシッドからミニマルへ変容していくサウンド、LEDスクリーンに映る幾何学的に波打つ映像。これらが完璧にシンクロし彼のサウンド・キャリアをゆっくりと描き出すようなステージに、静観する者、踊り狂う者、フロアの反応も様々だ。そして、それをよそにドームの中でひたむきにプレイするリッチーは、まるで光とテクノロジーの繭の中で羽化を待っているようにも見える。
そんな状態が1時間ばかり続いていき、あっさりとLEDが消え、音が止んだ。終わりか!これで終わりなのか!?と思ったら、なんとリッチーが円柱状のLED スクリーンの前にリズムマシンひとつで姿を現したのだ。地割れのような大歓声が上がり、歓喜に沸き立つフロアを前にリッチーは、あの“Spastik”をプレイした。彼の狂気が宿るスネア・ロールの嵐、そこに釘を打ちこむようなパーカッシヴ・ビート。人を躍らせるダンス・ミュージックの根源とは、そもそも打楽器にあることを、テクノというある意味人より最も遠い音楽があっさり証明してしまった永遠のクラシックスである。重厚なセットの鎖から解き放たれたように、リッチーはリズムマシンを操り、“Spastik”をさらに躍動させる。音像をLEDスクリーンで描き、視覚と聴覚の両方から入ってくる情報すべてが人の感性と創造性を刺激し、最後の最後で高揚とダンスを促す。08年の「CONTAKT」、09年ダブファイアとの「Click 2 Click」、そして今年の「PLASTIKMAN」は、その集大成とも言えるアクトであり、普段のプレイとはまるで違う、リッチーの野心的な創造性が爆発した素晴らしいステージだった。
その後は、「RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREA」のSHINICHI OSAWAと「WORLD WIDE AREA」のトリ、パコ・オスナを行ったりきたりしているうちに時刻も4:30に。だいぶ疲労がたまってくる時間帯だが、パコ・オスナのスピンするテック・ハウスはこれがまた最高に踊りやすかった。この時間帯にハウス系のラインナップを組み込んでくれるのは本当にありがたい。いや、今回はパコ・オスナのセレクトがたまたまそうだったのかもしれないけれど、今年の『WIRE』のレディオ・スレイヴ、『METAMORPHOSE』のラリー・ハード枠のような疲れた体でも気持ちよく躍らせてくれるセットだった。そして「RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREA」のトリ、DEXPISTOLSがラストにスピンしたレディオヘッドの“クリープ”を聴きながら幕張メッセを後にした。
去年も感じたことなのだけど、『WOMB ADVENTURE』はフェスというよりは、クラブ・セットをそのまま拡大させたような印象で、『WIRE』とも『METAMORPHOSE』とも差別化できる理想的な空間だと思う。距離的な問題を抜きにすれば、ふらっとパーティーへ遊びに行く感覚とすごく似ていて、フェス特有の長丁場な感じが全くしないのだ。フードは少なめドリンクバーは多めという構成もすごく納得。フェス空間としても昨年より快適になっている(仮説トイレの数も昨年より増えたし)。今年は単にテクノ、エレクトロという住み分けではなく、ドラムンベースを大バコで聴けるという新たな試みもあってジャンルとしても広がりを見せているし、LEDをふんだんに使用したあの圧倒的なライティングは『WOMB ADVENTURE』が持つ最高の強みだ。確かにハコに遊びに来ている感覚なのにそれでいてフェスが終わった後のあの何ともいえない充足感と寂しさを得ることができるのはとても不思議な感覚だった。来年の12月も楽しみに待ちたいと思います!(古川純基)